ウパダシチニブはIBD診療を変えるか

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研究の背景:therapeutic ceilingを打ち破れる薬剤か?

 潰瘍性大腸炎(UC)は大腸に原因不明の慢性炎症が起こる炎症性腸疾患(IBD)の1つであり、本邦では指定難病に分類されている。かつてはその名の通り治療困難であり、5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤やステロイドを使用してもコントロール不良な症例には入院や大腸全摘が必要となるケースも少なからず存在した。

 しかしながら2000年代に入り、インフリキシマブ(商品名レミケード)や アダリムマブ(ヒュミラ)を皮切りに、ゴリムマブ(シンポニー)、 べドリズマブ(エンタイビオ)、 ウステキヌマブ(ステラーラ)、 ミリキズマブ(オンボー)といった生物学的製剤(バイオ)が、さらに最近ではヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のトファシチニブ(ゼルヤンツ)やフィルゴチニブ(ジセレカ)といった経口投与可能な低分子化合物が加わり、治療予後が大きく改善した()。

表.難治性UCに用いられる生物学的製剤と低分子化合物の一覧(2023年11月現在)

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(小林拓氏提供)

 その半面、therapeutic ceilingといわれるように、有効性はどの薬剤も頭打ちで大きな差はなく、現状では投与経路や間隔の違いが薬剤選択の主たるポイントとなっている(Nat Rev Gastroenterol Hepatol 2023; 20: 79-80)。

 そのような中で2022年後半に、既存治療無効の中等症~重症のUCに対しウパダシチニブ(リンヴォック)が承認された。国際共同臨床試験U-ACCOMPLISHならびにU-ACHIEVE(Lancet 2022; 399: 2113-2128)において、寛解導入療法試験では、ウパダシチニブ45mg 1日1回投与により8週時点において、主要評価項目の臨床的寛解を達成する患者の割合がプラセボに対して有意に多かった。寛解導入レスポンダー(451例)はその後の維持療法試験に進み、同薬15mgおよび30mg 1日1回投与により52週時点において臨床的寛解を達成した割合が、やはりプラセボに対して有意に多かった。その他にも、評価された全ての臨床的、内視鏡学的、組織学的評価項目で高い有効性を示した。特にバイオ既投与例でもプラセボとの差が非常に大きいことなど、現在のtherapeutic ceilingを打ち破るような有効性を期待され、臨床現場に登場した薬剤である。

 今回は、その主論文に症例を追加し、維持療法試験の成績を中心に詳細に検討した論文を紹介したい(Lancet Gastroenterol Hepatol 2023; 8: 976-989)。(関連記事「潰瘍性大腸炎に対するJAK阻害薬は有望」

小林 拓(こばやし たく)

北里大学北里研究所病院炎症性腸疾患先進治療センター センター長、消化器内科部長
北里大学医学部消化器内科学 准教授

1998年、名古屋大学医学部卒業。関連病院で研修の後、2004年より慶應義塾大学消化器内科特別研究員として炎症性腸疾患の研究に従事、2008年医学博士。2009年、米・ノースカロライナ大学博士研究員、2012年北里研究所病院消化器内科医員を経て炎症性腸疾患先進治療センター副センター長、2022年より現職。
日本消化器病学会(専門医・指導医・学会評議員・ガイドライン委員)、日本消化器内視鏡学会(専門医・指導医・学術評議員)などに所属。日本炎症性腸疾患学会では国際交流委員会、機関誌編集委員会委員長、European Crohn's and Colitis Organisationのクローン病ガイドライン委員を歴任。

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