骨形成促進薬を処方できるのは骨粗鬆症だけ

「骨折治癒、骨癒合促進」効果はない

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研究の背景:適応拡大を支持するエビデンスはなし

 ウェブであれ現地開催であれ、医療現場をミスリードする講演が散見される。整形外科領域で挙げれば、単なる鎮痛作用しかないのに「軟骨再生」と謳った講演(関連記事「暴走する"膝OA自由診療"にお手上げ」、「東大に喝!まるで民間自由診療クリニック」)、エビデンスもなく整形外科のメジャー疾患に効くことをニオわせる鎮痛薬の講演(関連記事「"糖尿病に降圧薬を処方する"整形外科医」)、怪しげなデータベースを用いて心血管リスクはないと言い張る骨粗鬆症治療薬の講演(関連記事「"反面教師"認定された日本の添付文書」、「ロモソズマブの心血管リスクは他剤と同等」)...患者は危険で効かない薬を飲まされ、国民は無駄な社会保険料を負担させられることになる。

 最近特に目に余るのは、いわゆる「骨形成促進薬」すなわちテリパラチド(商品名:フォルテオ、テリボン)とロモソズマブ(商品名:イベニティ)が、「骨折治癒促進、骨癒合促進」に効果があるという都市伝説を流布している講演である(関連記事「骨形成促進薬についての大いなる誤解」)。嘆かわしいことに、日本の整形外科医の中にはすっかりこれを信じ込んでいる人もいる。

 全世界において、テリパラチドやロモソズマブの適応症は「骨粗鬆症」のみである。ところが日本の医療現場では、骨粗鬆症の有無にかかわらず、骨折患者や脊椎固定術患者への「適応外処方」が頻繁に行われている。

 テリパラチドやロモソズマブを開発したグローバル製薬企業は「骨粗鬆症」に加えて、「骨折治癒、骨癒合促進、脊椎固定」への適応拡大を目指して10年以上にわたって多くの臨床試験を行ってきた。しかし、どれも適応拡大には至っていない。

 「骨折治癒、骨癒合促進」についてのランダム化比較試験(RCT)は、テリパラチド(J Bone Miner Res 2010; 25: 404-414Acta Orthop 2016; 87: 79-82Osteoporos Int 2022 ; 33: 239-250)もロモソズマブ(J Bone Joint Surg Am 2020; 102: 693-702J Bone Joint Surg Am 2020; 102: 1416-1426)も、ともにことごとく有効性を示すことに失敗している。RCT以外の臨床研究も含めたメタ解析やシステマチックレビューにおいても、「骨折治癒、骨癒合促進」への有効性は否定されている(PLoS One 2016; 11: e0168691Biomed Res Int 2020年8月20日オンライン版Osteoporos Int 2021; 32: 1531-1546)。

 今回紹介する論文は、中国からの最新のメタ解析である(J Pak Med Assoc 2024; 74: 741-751)。

川口 浩(かわぐち ひろし)

1985年、東京大学医学部医学科卒業。同大学整形外科助手、講師を経て2004年に助教授(2007年から准教授)。2013年、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター・センター長。2019年、東京脳神経センター・整形外科脊椎外科部長。2023年、社会医療法人社団蛍水会 名戸ヶ谷病院・整形外科顧問。臨床の専門は脊椎外科、基礎研究の専門は骨・軟骨の分子生物学で、臨床応用を目指した先端研究に従事している。Peer-reviewed英文原著論文は340編以上(総計impact factor=2,032:2023年7月現在)。2009年、米国整形外科学会(AAOS)の最高賞Kappa Delta Awardをアジアで初めて受賞。2011年、米国骨代謝学会(ASBMR)のトランスレーショナルリサーチ最高賞Lawrence G. Raisz Award受賞。座右の銘は「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」。したがって、日本の整形外科の「大樹」も「長いもの」も、公正で厳然としたものであることを願っている。

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