日本では毎年多くの熱中症患者が発生しており、個人での対策も重要だ。熊本大病院(熊本市)救急部の楯直晃医師は「暑さに強い体をつくるには、暑い環境に徐々に適応する暑熱順化により、体の仕組みを強化する必要があります」と指摘する。 ▽熱中症を見据えて 暑熱順化が十分でない状態で急に暑さにさらされると、適切に体温を調節できず熱中症のリスクが増加する。逆に言えば暑熱順化が進むことで、熱ストレスに対する耐性が向上し、運動時や日常生活での熱中症リスクが低下する。 暑熱順化ができるようになると、体の熱を効率よく逃がす仕組みが強化される。具体的には「発汗量が増えるため体温が上がりにくくなり、皮膚の血流量が増加して放熱が促進されるため、より効果的に体温を調整できるようになります」。また、心拍数が低下することで暑い環境下でも心臓や血管への負担が減り、熱ストレスに適応しやすくなるという。 ▽計画的に 個人差があるものの、暑熱順化は一般的に数日~2週間程度でできる。しかし涼しい環境に長くいると、数日程度で失われるため、夏期に入る前に、無理のない範囲で、計画的に暑さに次第に慣れることが大切だ。 「屋外でウオーキングなどを行い、時間を徐々に増やすことで発汗機能を高めたり、シャワーだけでなく湯船に漬かることで体温調節機能を鍛えたりすることが有効です。エアコンの設定温度は極端に低くせず、適度に汗をかくことも効果的です」 この過程では、熱中症を防ぐために水分補給と塩分摂取が重要。「スポーツドリンクや経口補水液を小まめに飲むことを意識しましょう。屋外では帽子をかぶり、日陰に入って休憩を取ることを心掛け、体温の急激な上昇を防ぐことも欠かせません」 ただし、暑熱順化できても熱中症になるリスクがなくなるわけではない。特に体調が優れないときや、気温が極端に高い日には熱中症リスクが高まる。高齢者や子ども、持病のある人はもともと熱中症リスクが高いため、より慎重になる必要がある。 「喉の乾きや頭痛や倦怠(けんたい)感、嘔吐(おうと)、下痢、意識障害、けいれんなどが見られたときはすぐに涼しい場所に移動し、水分、塩分を補給して、直ちに医療機関を受診してください」と楯医師は助言する。(メディカルトリビューン=時事) ◇ ◇ 熊本大病院の所在地 〒860―8556 熊本市中央区本荘1の1の1 電話096(344)2111(代表)