脱腸の俗称で知られる鼠径(そけい)ヘルニア。医療機器販売会社の調査によると国内の潜在患者は約76万人に上ると見られる。帝京大医学部付属病院(東京都板橋区)外科の三澤健之教授は「自然に治ることはありません。悪化すると命に関わるケースもあり、放置は禁物」と警鐘を鳴らす。 ▽低い認知度が課題 鼠径ヘルニアは、太ももの付け根(鼠径部)の筋膜が弱くなり、筋膜の隙間から小腸などの内臓が皮膚の下に突出する病気。鼠径部のしこり、でっぱり、できものと思っているものは、鼠径ヘルニアの可能性がある。患者層は乳幼児から高齢者まで幅広いが、加齢によって筋膜が弱くなる40歳以上、特に70歳前後の男性に多く見られる。 横になったり手で膨らみを押し込んだりすれば通常は元に戻るため、「見た目が気になったり違和感や不快感があったりしても、痛みはなく日常生活や仕事に支障がないからと、病院を受診しない人が非常に多い」。鼠径ヘルニアという疾患の認知度そのものが高くない上に、どの医療機関を受診すればよいか分からないなど情報不足も課題で、「まずはこの病気を正しく知ってほしい」。 ▽外科手術で治る 成人の治療法は、筋膜の隙間をポリプロピレン製のメッシュ素材でふさぐ手術だ。「年間15万件も行われ、短時間の手術でほとんどが完治可能です」 症状が重くなると、手で押し込んでも元に戻らない「嵌頓(かんとん)」を起こし、強い痛みを伴い腸閉塞(へいそく)など命に関わる状態に陥ることがある。その場合、救急車を要請し緊急手術が必要だ。「そうなる前に、計画的な手術の検討を」 「鼠径ヘルニアは恥ずかしい病気ではありません。腹腔(ふくくう)鏡手術など選択肢も進歩しており、日帰り入院での手術が可能なケースも。決して放置せず、早めに消化器外科へ受診を。近隣に見つからない場合は、かかりつけ医などに相談してください」と三澤教授は助言する。(メディカルトリビューン=時事)。