頭をぶつけた衝撃で脳全体が揺り動かされて生じる、一過性の脳機能障害「脳振とう」。筑波大付属病院(茨城県つくば市)脳神経外科で「スポーツ脳振とう外来」を担当する室井愛講師は「スポーツによる脳振とうの多くは短期間で回復する一方、頭痛などの症状が1カ月以上続くケースも珍しくありません」と話す。 ▽重病の兆候あれば救急車 脳振とうは、人や物への衝突、転倒、転落が原因となる。特に接触の多い格闘技、サッカーやラグビーなどで起こりやすい。「意識を失うこともある他、頭痛、吐き気、めまい、ふらつき、ぼやけて見える、音や光に過敏になる、集中できないなどさまざまな身体的、精神的な不調を来します」 脳振とうが疑われる場合、「監督者はその選手を直ちに競技から離脱させ、速やかに救急外来や脳神経外科、子どもなら小児科を受診させるよう勧めます」。 ただ、脳振とうを症状だけで判断するのは難しく、CT画像などで脳内に出血や損傷がないと確認されて初めて診断される。「意識障害、けいれん、受け答えがおかしい、強い頭痛や嘔吐(おうと)、首の痛みなどがある場合は、脳振とうよりも重病の可能性があるため、すぐに救急車を呼びましょう」 ▽症状消えるまで休息を 脳振とうと診断された場合、症状が重いケースなどは入院して経過を観察する。「診察後、帰宅できた場合でも、1、2日は活動を控えめにする必要があります。運動や入浴、勉強、テレビ、ゲーム、スマホなどは控えて体と脳をできるだけ休ませましょう」 症状がなくなるまで十分に休息を取り、少しずつ運動の強度を上げながら競技に復帰する段階的復帰が推奨されている。「復帰が早過ぎると症状が悪化する可能性があります。また、脳振とうを繰り返すと重い後遺症を残す場合もあるため、勇気を持って一時的に競技を休むことが大事です」 スポーツによる脳振とうを減らすには、壁や障害物との接触、床が滑りやすいなどのリスクがないかといったプレー環境の確認や防具、装備品の点検と整備、プレーヤー同士の接触や衝突が起こりにくいルールの適用などが求められる。 室井講師は「子どもたちやスポーツ選手の安全を守るためにも、脳振とうの診断から症状回復、競技復帰まで医師やアスレチックトレーナーなどがサポートする体制づくりが望まれます」と話している。(メディカルトリビューン=時事) ◇ ◇ 筑波大付属病院の所在地 〒305―8576 茨城県つくば市天久保2丁目1番地1 電話029(853)3570(予約センター)