加齢に伴い聴力が低下する加齢性難聴は認知症のリスクになり得る。慶応大病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の大石直樹准教授らの研究グループは、長期にわたり補聴器を装用している人では認知症リスクが緩和される可能性があることが分かったと報告した。 ▽うつ状態にも 難聴の大半を占める加齢性難聴の場合、治療の中心は補聴器の装用だ。補聴器を用いず放置すれば、日常生活にさまざまな影響を及ぼしかねない。「人とのコミュニケーションが取りにくくなったり、社会的に孤立してうつ状態に陥ったり。認知症リスクも高まるといわれています」と大石准教授。 難聴は中年期における認知症の最大のリスク因子だが予防可能だと、国際共同研究グループが報告し、注目されている。「しかし、どの程度の難聴になったら認知症予防として装用すべきかということは分かっていませんでした」 そこで大石准教授らの研究グループは、2022年9月から23年9月までに慶応大病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科を外来受診した55歳以上の117人を対象に、聴力と認知機能の関係を調べた。その結果、補聴器の装用経験のない難聴者では、低音から高音の四つの周波数における平均聴力の閾値(いきち、聞こえる音の中で最も小さい音)が38.75デシベルを超えると、認知症のリスクになり得ることが分かった。 ▽補聴器でリスク緩和か 「38.75デシベルは、軽度難聴(25~40デシベル未満)と中等度難聴(40~70デシベル未満)の境目に近く、会話の中で聞き返すことが増えたりするのが特徴です」 また、研究では3年以上の補聴器装用者では、認知症リスクになり得る聴力閾値は見られず、長期にわたり補聴器を使うことによる認知症リスクの緩和が示唆された。加齢性難聴と認知症リスク、さらに補聴器の「効用」に関する興味深い結果が得られた。 「55歳以降の中高年層で、聞き返しが多い、テレビの音量が大きい、後ろからの呼び掛けに反応しないなど、日常生活で聞こえに関する不便さを感じたら、認知症リスクについて理解し、一度、耳鼻咽喉科を受診してほしいです」 受診により、加齢性難聴か否かを含めた検査・診断が可能となる。「補聴器はどこでも購入できますが、大切なのは本人の聴力に合っているかどうかです。耳鼻咽喉科や言語聴覚士など、補聴器の専門家にご相談ください」と、大石准教授は呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事) ◇ ◇ 慶応大病院の所在地 〒160―8582 東京都新宿区信濃町35 電話03(3353)1211(代表)