座談会 JDDWが牽引する消化器科医の生涯活躍

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 働き方改革や女性活躍が叫ばれる一方で、多くの消化器科医がライフイベントによるキャリア継続の困難に直面しており、性や世代を問わず"生涯活躍"を支える環境整備が求められています。本座談会では、JDDW理事長の小池和彦氏が座長を務め、キャリア支援の最前線に立つ赤羽たけみ氏、花岡まりえ氏、田中聡司氏、玉城信治氏がご参集。4氏による"医師の生涯活躍"に向けた支援の在り方に関する議論に注目してください。

[座長]

小池 和彦 氏

日本消化器関連学会機構(JDDW)理事長

[出席者]
(発言順)

赤羽 たけみ 氏

宇陀市立病院 院長

花岡 まりえ 氏

東京科学大学消化管外科学分野 准教授

田中 聡司 氏

独立行政法人国立病院機構大阪医療センター消化器内科

玉城 信治 氏

武蔵野赤十字病院消化器内科 副部長

 昨今、働き方改革や女性活躍への関心が高まる一方で、ライフイベントに伴う制約から多くの消化器科医がキャリアを継続する上で困難を抱えています。性や世代を問わず"生涯活躍"を支える環境整備が求められています。日本消化器関連学会週間(JDDW)では毎年「女性医師・研究者プログラム」を通じて情報発信を行っており、今年は第25回医療セミナー「医師の働き方改革の現状と課題」において議論の場を設けています。その開催に先立ち、本座談会では日本消化器関連学会機構理事長の小池和彦氏が座長を務め、赤羽たけみ氏、花岡まりえ氏、田中聡司氏、玉城信治氏の4氏に参集していただき、自身の経験や課題を踏まえ、"医師の生涯活躍"に向けた支援の在り方とJDDWの役割について意見を交わしていただきました。

◆ライフイベントに揺れる医師のキャリア~働き続けることの難しさ

小池 出産や育児といったライフイベントは、キャリアを築く時期と重なりやすく、キャリア形成の上で重要な時期に臨床現場を離れ、その後の復帰が難しくなるというケースが少なくありません。こうした問題について、先生方のご経験を踏まえ、ご意見を伺いたいと思います。

赤羽 私は大学院を修了した後、アメリカ国立衛生研究所(NIH)に留学しましたが、育児の時期に家族とともに渡米しました。NIHでは研究職として勤務していたため、時間や業務量をある程度自分の裁量で調整でき、過度な負担を感じずに仕事を続けることができました。
 一方、日本の大学や医療施設では、臨床・教育・研究の3つの役割に加え、患者の受け持ちも任されるため、時間のコントロールは容易ではありません。こうした制約がキャリア形成を難しくしている要因だと感じています。

花岡 東京科学大学(当大学)では、女性の管理職を増やす取り組みが進められており、私はキャリアアップコースを経て今年(2025年)4月に准教授に就任しました。現在の立場に至るまでの経歴としては、研修医6年目に出産し、院内や公立の保育園を利用しながら市中病院で外科医を続けました。しかし、業務と育児の両立は体調を崩すほど多忙を極め、いったん臨床の担当を離れ、研究との両立で育児をしたいと考え、大学院に進学して学位の取得を目指しました。
 外科医としては、静岡がんセンターでロボット支援手術を学び、日本内視鏡外科学会の技術認定医を取得しました。この期間も子供の進学などが重なり、育児と仕事の両立に苦心した体験から女性外科医のキャリア支援に関心を持ち、学会などで発表や講演を行ってきました。今、外科医が少なくなってきている現状も踏まえ、現在は女性に限らず若手外科医の育成にも力を入れています。

小池 田中先生はSNSによるキャリア支援に取り組まれています。どのような経緯で始められましたか。

田中 私は2005年に大学を卒業し、多忙な病院での研修後、大学院に進学し、「不夜城」と呼ばれるほど熱心な研究グループで学位を取得、37歳で大阪医療センター(当センター)に赴任しました。大学院修了後に縁あって消化器系学会のキャリア支援委員会の委員を務めたことを機に、各学会のキャリア支援活動やSNS広報に携わっています。
 教育に関わる機会も多いのですが、当センター入職時にはそれまでの厳しい環境とは一転した、ゆとりある現場の雰囲気や若手教育に対する姿勢の違いに戸惑いました。また、後期研修開始直後に妊娠・離職した女性医師が、臨床ブランクや心理的ハードルで復帰しづらい現実にも直面しました。こうした経験から試行錯誤を重ね、若手教育と復職支援を兼ねたSNS活用のオンライン抄読会を考案しました。

小池 玉城先生はいかがですか?

玉城 私は2006年に医師となり、初期臨床研修を経て2008年に現在の武蔵野赤十字病院(当院)に入職して以来、18年間勤務しています。途中、2020~22年は米・サンディエゴに留学して研究や臨床に従事し、再び当院に戻りました。
 これまで、私自身は子供の起床前に出勤し就寝後に帰宅するという、いわゆる昭和的な勤務を続けてきましたが、同じ働き方を若手に求めるつもりはありません。現在は管理職として、多忙な環境下でも休暇を取得したり、研究活動・学会参加に積極的に取り組める体制づくりに日々努めています。

◆復職ハードルを乗り越える鍵は"現場との関わりを持ち続けること"

小池 ライフイベントによるキャリア離脱を防ぐ方策を考えてみたいと思います。赤羽先生、NIHに留学時の育児はいかがでしたか。

赤羽 NIHでは、出産直前まで勤務し、生後1カ月の乳児でも託児施設に預けて働くことが一般的でした。私もNIHの保育園に子供を預けて仕事をしていました。日本より環境が整っているので、育児の時期にあえて留学するというのも、働き続けるための手段になるかもしれません。

小池 花岡先生は、育児のために大学院に進学することを選ばれています。なぜ大学院への進学を選ばれたのですか。

花岡 一番の決め手は患者を受け持たない「ベッドフリー」で働けることでした。 研究中心ならば、育児との両立ができると考えたからです。また、幼少期は子供を預けて仕事と育児を両立していましが、公立保育園では夕方になると定時で迎えを求められた一方、「院内保育園」は融通が利くので、育児中の復職に有用なツールになりました。ただ、医師の世界ではいまだに育児の担い手は女性がメインになる風潮が残っていたり、帰宅時間が遅くなるといった他病院の外科での状況も聞きますので、環境面を含め職場全体にわたる改革の必要性を強く感じています。

小池 お二人の経験を踏まえると、研究職や大学院への進学は、キャリア離脱を防ぐ1つの方策といえそうです。

玉城 現場を離れた際の臨床技術に関して、私は約15年の臨床経験を積んだ後に留学したので、内視鏡などに全く触れない期間が2年間ありましたが、復帰後はすぐに勘を取り戻すことができました。もし技術習得前に出産などで現場を離れた場合、復帰に当たってのハードルはどの程度高くなるのでしょうか。

花岡 ハードルは確かに高いと感じます。私自身、出産時は直前まで手術に携わり、出産後も8週で復帰したため大きなブランクはありませんでした。ところが、研究に専念して2年間手術を離れた際には、勘を取り戻すまでに半年を要しました。

赤羽 キャリア支援を行っていると、長期にわたる職場離脱は復帰が難しくなるため、非常勤などの短時間でも働き続けたいという声を多く耳にします。例えば、消化器内科で週2~3回でも内視鏡診療を継続していれば、復帰時のハードルは大きく下がると思います。

田中 一定の内視鏡技術を身に付けていれば、外勤などで働き続けることができます。ところが、習得前にライフイベントを迎えると、技量不足から働きたくても働けず、職場に復帰する機会を失い、健康診断などのアルバイトを続けるしかないといったケースがあります。そこで、職場に足を運ばずとも現場とつながれる仕組みとして始めたのが、オンライン抄読会です。

赤羽 奈良県立医科大学には、40歳で医師免許を取得した医師も在籍しています。こうした多様なキャリアの在り方が示すように、卒後の年数にとらわれず、個人のスキルに応じた支援体制を整える必要があると思います。

花岡 技術の維持という点では、外科でも情報を更新し続けることが欠かせません。最近普及が進むロボット支援手術では、他者の執刀動画を見て学ぶことができます。手術動画を公開するサイトもあり、当大学でも手術動画を関連病院の医師と相互に供覧できるシステムや定期的なオンライン勉強会を運用しています。

◆ロボット支援手術が開く女性外科医の未来、SNSが支えるキャリアの継続

小池 ロボット支援手術は近年急速に普及しており、その登場は女性外科医が活躍する上で重要な追い風となっています。

花岡 そうですね。ロボット支援手術の利点は、座って手術できることと"腕力"を使わないことにあります。例えば、全工程が3時間半の手術では、そのうちの約2時間はコンソールの前に座って操作します。立位で行う従来の手術は腰への負担が大きく、体力の消耗も避けられません。一方、ロボット支援手術では座ったまま安定して楽に操作できるため、体力的に不利とされがちな女性外科医であっても、男性外科医と同等に活躍することができます。

小池 ロボット支援手術において、手先の器用さはどの程度必要とされますか。

花岡 手先の器用さや特別な操作スキルはほとんど問われませんので、誰でも比較的すぐに操作できるようになると思います。重要なのは、解剖学の理解に加え、思考力、手術を再現する力と応用力です。言い換えれば、必要とされる条件に性差はなく、その意味でもロボット支援手術は女性外科医にとって大きな追い風となるモダリティといえます。

小池 ロボット支援手術は、女性外科医の活躍に重要な役割を果たしているようです。
 医師の活躍を支える要素として、SNSの活用も外すことができません。田中先生、この点についてご解説をお願いいたします。

田中 SNSには、不特定多数に公開されるオープン型と、限られたユーザーのみが利用できるクローズ型(外部に公開されないプライベートなコミュニティ)があり、私が運営するオンライン抄読会は後者に当たります。当科では、クローズ型SNSツールであるDiscord を「デジタル医局」として情報共有の基盤にしています。その中で開催している週1回のオンライン抄読会は、任意の時間に参加できる形式を採り、休職中や勤務時間が不規則な医師でも無理なく参加できるようにしています。抄読会は当番制で、発表担当者は選定した医療記事・論文をDiscord上に共有し、参加者は都合の良いときに文献を読み、質問や意見を投稿します。その後、対面またはオンラインで指導医が投稿内容を整理・フィードバックし、議論を深めることで信頼関係の構築を目指しています。臨床の現場を離れていても学術的思考を保ち維持できるため、復職の実務的・心理的なハードルを下げるなど、生涯にわたるキャリア支援としても有効な方策です。
 また、オープン型SNSについて述べますと、ライフイベント期にある医師は外出や学会参加が難しく、人と会う機会も限られやすいものです。そうした医師にとって、Xのようなオープン型SNSは、悩みや困り事を共有・解決する有効な場となっています。私の経験上、学会などのアンケートでは50歳以上の回答者が中心で若手の意見は少なく、ライフイベント期にある医師の声を拾うのは困難です。一方、SNSにはさまざまな医師が多数集まっているので、そこで得たコメントを基にウェブアンケートを実施すれば、若手医師やライフイベント期にある医師の意見を反映できます。JDDWも独自のSNSアカウントを設ければ、集まった声を運営に生かせるのではないでしょうか。

小池 JDDWはハイブリッド形式での開催を続けていますが、オンデマンド配信は現地での参加が難しい医師にとって有益な支援となっていますか。

田中 大きな支援になっていると感じます。各セッションの開催時間は、業務や子供の送り迎えなどの時間に重なることが多く、リアルタイムでの視聴は難しいのが実情です。視聴時間が確保できるのは夜9~10時以降になることも少なくありませんので、時間に縛られずに視聴できるオンデマンド配信は、多くの医師の学会参加に寄与していると思います。

◆問われる働き続けられる環境づくりと不公平感への配慮

小池 働き続けられる環境という観点では、大学の医局にはいまだ前近代的な体制が残っているように思われます。赤羽先生は、なぜ先進的なNIHから大学に戻る道を選ばれたのですか。

赤羽 大学に戻ったのは、研究を続け教育にも携わりたいと考えたからです。しかし、現在市中病院に勤務して、大学の働く環境は遅れていると実感しました。市中病院では育児支援制度が充実しており、夜間保育を行う院内保育園を設置していたり、時短勤務や週3日勤務でも常勤医として雇用する体制があります。大学でも同様の働き方をする医師はいますが、実際に正職員として採用されるのは容易でなく、講師や准教授に就任する女性医師は依然として少ないです。

小池 東京科学大学では、具体的にどのような取り組みをしているのか教えてください。

花岡 当大学では、大学病院が率先して働き方改革とチーム制を進めることで、関連病院への波及を目指しています。具体的には労働時間を見直し、朝は午前8時15分にカンファレンスルームに集合し、午後4時半には手術に入っていないメンバーで回診を行い、5時に退勤できる業務体制を採用しています。さらにオンコール制を導入し、土日を含め全ての曜日を最小限の医師で分担しています。
 ただ、関連病院では同様の体制を敷くことは難しい面がありますので、年1〜2回の関連病院の集まりでは教授が大学での取り組みを紹介し、働き方改革や主治医制からチーム制への移行を呼びかけています。

小池 現在教授職にある医師、そして今後その立場を担う医師には、旧体制の刷新を進めていただきたいですね。

赤羽 働き方支援には不公平感への配慮も欠かせません。現場には、制約がある医師と全力で働ける医師がいます。私が以前実施したキャリア支援に関するアンケートでは、「制約がある医師の代わりに他の医師が負担を背負うのは不公平」という意見が寄せられました。一方で、制約がある医師は職場の支援体制が不十分だと不満を持っています。こうした相反する声にどのように応えていくべきでしょうか。

玉城 当直では、夜は男性医師、日中は女性医師といった采配になりがちで、不平等感が生じやすいです。しかしその多くは、業務負担に比べ評価が低いことに端を発しており、その是正は管理者の責務だと考えます。正当な評価に加え、当直翌日や休日勤務後の休暇取得、有休消化の徹底を図ることで、小さな不満を1つ1つ解消することが重要だと思います。

花岡 在籍医師数の多い大学病院での方策になりますが、当大学では育児中の医師を関連病院に派遣する際、育児経験のある管理者や上級医がいる施設を選んだり、育児支援に理解のある男性医師と組み合わせて派遣するなど、安心して働けるよう調整しています。

小池 大学を含め、医療現場全体がより先進的な姿へと変化していく必要がありますね。

◆世代・診療科を超えたJDDWでの交流が医師の活躍を広げる

小池 最後に、医師の活躍への寄与を含め、JDDWの果たすべき役割について、先生方のご意見をお伺いしたいと思います。

赤羽 JDDWには消化管、肝臓、胆膵など各領域の専門家が集まり、普段は接点が少ない医師同士の意見交換から新たな研究の芽が生まれます。多施設、多領域、世代を超えた多様な交流が育まれ、学会単位の集会とは異なり、全領域の医師が活躍できる場になっています。

花岡 JDDWを通じて外科と内科の交流が深まれば、外科医にとって新しい有益な情報に触れる機会が広がります。互いの疑問や課題を共有することは、よりよい働き方改革やキャリア支援につながると思います。女性外科医の中には消化器外科から肛門科へ移り活躍されている方もいらっしゃいますが、領域が異なると情報交換はしにくいと思います。だからこそ、領域を超えて情報を共有し、協働してキャリア支援を進めることが重要だと考えます。

田中 内科と外科が集うJDDWは、多様な視点や知識が交わり、課題解決の糸口を見いだせる貴重な場です。専門学会のように顔ぶれが固定され考えが煮詰まりやすい場とは異なり、診療科を超えて発想が広がる点に大きな意義があります。ただ、学問的な水準の高さから、若手医師が議論に参加することは難しい面もあります。今後は、レジデントを含む幅広い世代の声を反映した企画を取り入れ、全世代にとって魅力的なJDDWになることを期待しています。

玉城 JDDWは、普段交流のない他学会の医師と知り合えるのが大きな特長で、毎年の参加時に有意義な機会だと感じています。一方で、学術的に洗練されているが故に、「医師中心の学会」という印象が強いのも事実です。看護師や検査技師など多職種が参加して活気がある他学会と同様に、JDDWもさまざまな職種が参加する裾野の広い学会へと発展してほしいと思います。

小池 消化器科医の生涯活躍について貴重なご議論をいただきました。本日のご意見を今後に生かし、JDDWを一層意義のある場として深化させていきたいと思います。ありがとうございました。

第68回日本消化器病学会大会

[会長]海野 倫明
東北大学大学院 消化器外科学

第112回日本消化器内視鏡学会総会

[会長]石原 立
大阪国際がんセンター 消化管内科

第30回日本肝臓学会大会

[会長]波多野 悦朗
京都大学大学院 肝胆膵・移植外科

第24回日本消化器外科学会大会

[会長]上野 秀樹
防衛医科大学校 外科

第64回日本消化器がん検診学会大会

[会長]三上 達也
弘前大学大学院 先制医療学

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