消化器がんに対するConversion surgeryの現状と課題

　かつて、外科的切除はがん根治の唯一の手段と考えられ、拡大手術の技術開発が進められてきた。しかし、局所進行がんや遠隔転移がある症例では外科的切除単独での根治は困難であり、その限界が明らかとなった。21世紀に入り、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬（ICI）などを用いた高い抗腫瘍効果を持つ薬物療法が相次いで登場したことで、がん治療の様相は一変した。この流れの中で確立されたのが、切除不能と判断された進行がんに対し、薬物療法を先行することで外科的切除が可能な状態に転換させ治癒を目指す、集学的治療戦略conversion surgery（CS）の概念である。司会の田邉稔氏は「本セッションの目的は、外科治療と薬物療法が相互に補完し合うことで、進行がんの治療成績がどのように向上するかについて、最前線を提示することだ」と話す。

臓器横断的にCSの最新知見と課題を提示

　本セッションは全12演題で構成され、臓器横断的な観点からCSの現状を俯瞰する。食道がんにおいては、牧野知紀氏、松田諭氏がICI治療後のCS例の治療成績や、切除不能食道扁平上皮がんに対する長期成績および予後因子について報告する。また、菊池寛利氏、庄司佳晃氏はICIを含む薬物療法後のCSの安全性に関し、特に急性呼吸窮迫症候群や免疫関連有害事象、縫合不全などの合併症に焦点を当てた発表を行う。胃がんでは、有上貴明氏がCSの有用性を予後予測因子やYoshida分類に基づき詳細に検証。岡川泰氏は傾向スコアマッチングを用いたCSの全生存（OS）延長効果や腹膜播種例への有効性について、大矢周一郎氏はICIがCS達成率に与える影響について明らかにする。

　大腸がんでは、田子友哉氏が肝転移に対するCSの長期成績を切除可能症例と比較し、予後予測因子を検討した結果を発表。佐々木槙子氏は、高用量化学療法であるFOLFOXIRIの有効性、安全性、CSの成績を検討した結果を提示する。

　肝細胞がんにおいては赤星径一氏が、日本肝胆膵外科学会と日本肝癌研究会が共同で策定した肝細胞がんの腫瘍学的切除可能性分類〔R（Resectable）、BR1（Borderline Resectable 1）、BR2（Borderline Resectable 2）〕と、これに基づく薬物療法後の外科的切除の実施率についてのデータを紹介する。また、西尾太宏氏は肝動注化学療法（HAIC）を含む多様な集学的治療が切除不能例を外科的切除に導く有効性について言及する。膵がんにおいては、山田豪氏が局所進行切除不能例に対するCSの経験を報告。FOLFIRINOXなどの強力な化学療法を併用することで、血管浸潤例の切除率や長期生存率がどの程度改善するか、大規模な症例データに基づき検証する。

　田邉氏は、「外科治療と薬物療法の融合は、切除不能がんの予後をどのように改善しうるか、本セッションはその現状と可能性を深く議論する場となる。CSは消化器がん治療において最もホットな研究テーマであり、臓器横断的に取り上げることで専門領域を超えた知見の共有が可能となるだろう」と述べている。