薬剤師のための漢方薬講座/鼻閉・鼻汁-現代医学的・東洋医学的な考察-

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする
感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

亀田総合病院 東洋医学診療科
南澤 潔 氏

PT101_p27.jpg

鼻閉(鼻詰まり)や鼻汁はいわゆるかぜ(普通感冒)のときにもよくある症状ですが(急性鼻炎)、短期間で治癒する急性鼻炎はともかく、数週間以上にわたって続く慢性的な鼻症状が日常生活に与える影響は甚大です。

目次

現代医学的な考察

  • 呼吸経路としての鼻
  • 慢性的な鼻閉・鼻汁の原因
  • 治療は内服薬や点鼻薬、外科的介入の他 最近はアレルゲン免疫療法も

東洋医学的な考察

  • 鼻汁の性状や随伴症状を見る
  • 花粉症には例外的なアプローチ
  • 慢性症状は本治で原因を改善

◎現代医学的な考察

◆呼吸経路としての鼻

鼻は臭いを感知する嗅覚器としての役割を持つとともに、気道(呼吸経路)としても重要な存在です。鼻の穴の奥(鼻腔)は、鼻中隔という、薄い骨と軟骨から成る壁で左右に分けられています。左右の鼻腔内にはそれぞれに上・中・下の3つの"鼻甲介"という粘膜に包まれた薄い骨がひだ様に突出しており、気流を整えると同時に吸気との接触面積を増やして、効率良く加湿、異物の吸着を行っています。

PT101_p27.jpg

◆慢性的な鼻閉・鼻汁の原因

慢性的な鼻閉・鼻汁の原因としては、アレルギー性鼻炎や慢性鼻炎、慢性副鼻腔炎(いわゆる"蓄膿症")があります。通年性の鼻閉では鼻中隔弯曲症や鼻腔内の腫瘍、ポリープ(鼻茸)、子供のアデノイド腫脹などによる物理的な鼻道閉塞の可能性があります。これらは外科的な治療で劇的に改善することもあります。

鼻閉、いわゆる"鼻詰まり"は、鼻水が鼻の奥に詰まっていたり、たまっているためと思われることがありますが、実際には炎症などにより鼻腔の粘膜が腫脹しているのが主な原因です。鼻閉は口呼吸、嗅覚の障害、味覚障害などを招きます。これらは、日々の生活や睡眠の質などにさまざまな悪影響をもたらします。

鼻汁は鼻粘膜から随時分泌されます。前に垂れずに鼻の奥から喉に垂れ込むと(後鼻漏)、痰と勘違いされることもあります。

◆治療は内服薬や点鼻薬、外科的介入の他 
 最近はアレルゲン免疫療法も

治療では抗アレルギー薬、ステロイド点鼻薬(鼻腔吸入)で鼻粘膜の炎症を抑えます。鼻粘膜の腫脹軽減のために血管収縮薬の点鼻が用いられることもあります。症状が重く治療反応性が悪いような場合はレーザーによる粘膜焼灼や鼻甲介切除が行われることもあるようです。最近では、抗原薬の舌下投与による減感作療法、つまり患者さんのアレルギーそのものを軽くするアレルゲン免疫療法も保険で行えるようになっています。

ただし、ご存じの通り抗ヒスタミン薬は、インペアード・パフォーマンスの問題が指摘されています。添付文書通りに運用するのであれば、基本的に「自動車運転や危険を伴う機械の操作」などができなくなってしまいます。日常生活に車が欠かせない地域に暮らす方や、操作に注意が必要な機械などを扱う仕事に従事する方にとって、添付文書の指示は現実的ではありません。

また、アレルゲン免疫療法は数年がかりの地道な治療であるため、完遂が容易ではないようです。

◎東洋医学的な考察

◆鼻汁の性状や随伴症状を見る

東洋医学的には鼻は五臓でいえば、呼吸器や気道を司る「肺」の一部に当たります。鼻閉、鼻汁は肺の冷え、または逆に過剰な熱がこもった病態と捉えられます。

冷えは一般に「水」の異常(水毒)を伴いやすい傾向があり、冷えからくる異常では水っぽい鼻汁がよく見られます。アレルギー性鼻炎ではこの病態が中心となることが多いようです。一方、熱がこもる病態では、鼻汁よりも炎症性の浮腫による鼻閉が中心になりやすく、副鼻腔炎などではこちらの病態がよく見られます。

そのため、鼻閉、鼻汁の原因を探っていく上では、鼻汁の性状や随伴症状が重要な意味を持ちます。サラサラした水様の鼻汁なのか、ドロドロネバネバと粘性で色の付いた鼻汁なのか? また、寒気や首の凝りを伴うか? くしゃみはどの程度で、どのようなくしゃみであるか? などです。

◆花粉症には例外的なアプローチ

スギを代表とする花粉症による症状は、アレルギー性鼻炎の中でもやや別格です。ちょうど、ウイルス性のかぜの中でもインフルエンザがやや別格であるようなものです。

大量の花粉曝露による、強烈な抗原刺激のため鼻粘膜に強い炎症を伴う花粉症では、冷えを基本としながらも、炎症性の熱と水毒も併存することが多いようです。この場合は、寒と熱それぞれに対する治療を併用するといった、東洋医学的には一見矛盾しているような方法を要することがあります。

◆慢性症状は本治で原因を改善

鼻閉、鼻汁に限ったことではないのですが、一般に慢性に経過する症状は対症的に治療(標治)しても再発、再増悪することが多く、原因となる患者の傾向、いわば「体質」を改善(本治)していかなければならないことがよくあります。

この場合は患者1 人1 人の特性に合わせ、東洋医学的に捉えられたゆがみや異常を是正していくことになるので、病名とは全く無関係に見える方剤を用いるケースも珍しくありません。

次のページでは鼻閉・鼻汁の治療に使う漢方薬を学びます

◆執筆者◆ 南澤 潔 氏


医学博士
日本東洋医学会 漢方専門医・指導医
日本内科学会  総合内科専門医・指導医
日本救急医学会 救急科専門医 

【ご略歴】
1991年 東北大学医学部 卒業
1991年 武蔵野赤十字病院 研修医
1993年 富山医科薬科大学(現 富山大学)和漢診療科
1995年 諏訪中央病院 内科
1996年 成田赤十字病院 内科
1999年 麻生飯塚病院 漢方診療科
2001年 富山大学 和漢診療科
2006年 砺波総合病院 東洋医学科 部長
2009年 亀田総合病院 東洋医学診療科 部長

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする