シップヘルスケアファーマシー東日本株式会社川村 和美 患者さんの望みに応えるか、医師の指示に従うべきか...。"倫理的判断"に迷う場面においては、直感に頼らずそのケースをさまざまな側面から幅広く検討し、より望ましい決定をするというプロセスが重要になります。 次のケースに遭遇した場合、あなたならどう考えますか? 「薬剤師は何もしてくれない」 私は、ドラッグストア内の保険薬局に勤務している薬剤師(31歳)です。 Cさん(59歳・男性)は、頭痛の訴えにより近医を受診し、2年前からありとあらゆる鎮痛薬が処方されています。しばらく処方や用量の変更はありませんが、処方薬を受け取った足でOTC薬の販売コーナーに向かい、いつも大量の鎮痛薬を購入していくのです。 そのことが気にかかっていたのですが、Cさんの気難しい雰囲気に声をかけられずにいました。ある日、処方薬をお渡しした後、OTC薬の購入に向かったCさんを追いかけて、思い切って声をかけました。 「病院から出されているお薬では、痛みが治まりませんか?」 するとCさんが私を睨みつけ、「『私たちに気軽に相談してください』なんてポスターが病院にも薬局にも貼られているが、あんなものは嘘だ。相談したところで、薬剤師なんて何もしてくれない。自分の痛みは自分でどうにかするしかないんだ」と吐き捨てるように言い、112包入りの鎮痛薬2箱を持ってレジに向かいました。 あなたならどうしますか? <img alt="A_alpha.png" src="https://asset.mtweb.jp/rensai/filesknowhow/diagnosis-judgement/a.jpg " width="30" height="30" class="mt-image-left" style="float: left; margin: 0 20px 20px 0;">これ以上引き止めてCさんを怒らせるのも嫌だし、OTC薬の購入はご本人の自由なので静観する。 <img alt="B_alpha.png" src="https://asset.mtweb.jp/rensai/filesknowhow/diagnosis-judgement/b.jpg " width="30" height="30" class="mt-image-left" style="float: left; margin: 0 20px 20px 0;">これまでCさんに接した薬剤師の対応はわからないし、自分にはどうすることもできないので、「薬剤師に不満を持っているのだな」と理解する。 <img alt="C_alpha.png" src="https://asset.mtweb.jp/rensai/filesknowhow/diagnosis-judgement/c.jpg " width="30" height="30" class="mt-image-left" style="float: left; margin: 0 20px 20px 0;">たくさんの鎮痛薬を飲んでいるにもかかわらず、痛みが改善されないはずがない。処方薬の薬効について、再度、丁寧な説明を試みる。 <img alt="D-aplha.jpg" src="https://asset.mtweb.jp/rensai/filesknowhow/diagnosis-judgement/d.jpg " width="30" height="30" class="mt-image-left" style="float: left; margin: 0 20px 20px 0;">処方薬と市販薬を重複服薬するリスクが心配なので、OTC薬の購入は止めるようCさんを説得する。 <img alt="E-alpha.png" src="https://asset.mtweb.jp/rensai/filesknowhow/diagnosis-judgement/e.jpg " width="30" height="30" class="mt-image-left" style="float: left; margin: 0 20px 20px 0;">「なにもしてくれない」というのはCさんの勘違いであるため、「是非なんでも私にご相談ください」と伝える。 あなたは、何番を選択しましたか?あるいは、別の方法を考えたでしょうか。このケースを考える上で大切な、5つの視点から解説していきます。※(関連記事)倫理的に判断するための5つの視点とは? 5つの視点から考えてみよう! ◆薬学的な視点鎮痛薬の種類は豊富 相互作用や過量投与に注意 Cさんに処方されている「ありとあらゆる鎮痛薬」とは、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンのほか、抗うつ薬、抗てんかん薬、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、トラマドールなどが考えらえます。市販薬には、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェンを主成分とする鎮痛薬が多く、エテンザミドやイソプロピルアンチピリン、ブロムワレリル尿素やアリルイソプロピルアセチル尿素、カフェインなどが配合されていることもあります。 これらの成分と、先の医療用の成分が併用注意の可能性もありますし、過量投与となる危険性も十分に考えられるでしょう。 ◆患者さんの視点なぜ薬剤師に不満を持ったのか Cさんは、なぜ"薬剤師は何もしれくれない"という不満を持っていたのでしょうか。 Cさんの発言から、過去に薬剤師に相談をした経験があったと推察できます。複数種類の鎮痛薬を処方されていても、楽にならない悩みを薬剤師に伝えた時、「そういうことは医師に言ってください」とか「医師の処方の通りに飲んでください」などと他人事のように扱われた印象を持っていたのかもしれません。あるいは、OTC薬の購入について相談した時、闇雲に反対されたとか、「ご自身で決めてください」と言われ、見放されたような気持ちになったのかもしれません。 ◆関係者の視点主治医は患者さんの状態をどのように捉えているか おそらくCさんは、処方薬を服薬しても痛みが改善されないことを主治医に伝えているでしょう。しかし、これ以上の鎮痛薬の追加は、およそ考えられないことから、主治医もCさんの訴えに困っている可能性があります。 もしかしたら医師は不定愁訴だと捉えており、そのことがCさんに伝わって、このような不満を感じている可能性も考えられます。 また、CさんがOTC薬を大量に購入して、処方薬と併用している事実を知ったら、主治医は違う判断や異なる治療をするかもしれません。 ◆状況の視点OTC薬の購入や服薬に関する患者や薬剤師の責任を考える 一般用医薬品とは、「一般の人が、薬剤師等から提供された適切な情報に基づき、自らの判断で購入し、自らの責任で使用する医薬品であって、軽度な疾病に伴う症状の改善、生活習慣病等の疾病に伴う症状発現の予防、生活の質の改善・向上、健康状態の自己検査、健康の維持・増進、その他保健衛生を目的とするもの」と定義されています1)。 OTC薬の購入や服薬は、個人の自己責任・自己判断の元に行われるとはいえ、"薬剤師等から提供された適切な情報に基づいていること"が前提となっていますから、Cさんが服薬している処方薬を知りながら見過ごすとすれば、薬剤師の責任を果たしておらず、相応の責任が問われるでしょう。 1)医療用医薬品と一般用医薬品の比較について(平成16年9月6日)第5回厚生科学審議会 医薬品販売制度改正検討部会 資料3(厚生労働省) ◆QOLの視点身体的にも精神的にも患者のQOLは高いとは言えない OTC薬の鎮痛薬を大量購入しているCさんは、痛みが軽減されていない辛い状況であるため、QOLは決して高くありません。加えて、"誰にも頼れない"という認識をされているという点でも、医療者に対する強い不信感があり、精神的にもQOLが高いとは言えません。 それぞれの対応は望ましい? 下の図は、さきほど選んでいただいた対応の一覧です。 あなたが選んだ対応が医療者として望ましい対応かどうか、次の記事では5 つの視点から問題を整理し、総合的に判断して、検証をしてみましょう。 ⇒【解説】薬剤師に不満を持つ患者への望ましい対応