再び「神経障害性疼痛」を問う

ミロガバリンは整形外科の薬ではない

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:帯状疱疹後神経痛で鎮痛効果実証、線維筋痛症では実証できず

 この「Doctor's Eye」での私の担当は「整形外科」である。ただ今回の記事は、整形外科とはなんの関係もない。

 今年(2019年)1月に医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、ミロガバリン(商品名タリージェ)を「末梢性神経障害性疼痛」という、曖昧で実体のない適応症名で承認・薬価収載した。ミロガバリンはプレガバリン(商品名リリカ)と同じ「α2δリガンド」で、神経伝達物質の過剰な放出を抑制する鎮痛薬である。プレガバリンが外資メーカーの製品であったのに対して、ミロガバリンは国内優良メーカーである第一三共が開発した薬剤で、いわば「国産のプレガバリン」である。私の懸念は、ミロガバリンがプレガバリンの悪しき前例を踏襲すること、すなわち「末梢性神経障害性疼痛」という曖昧な適応症の拡大解釈によって、効能が実証されていない整形外科疾患に乱用されることである(関連記事「ガバペンチノイドは疼痛万能薬にあらず」「今年3月は日本の整形外科にとって分水嶺」)。

 ミロガバリンの第Ⅲ相臨床試験は、今まで2つあった(下記関連リンク参照)。最初のNEUCOURSE試験は、帯状疱疹後神経痛患者765例を対象とした日本を含むアジアにおける第Ⅲ相臨床試験で、プラセボと比較した鎮痛作用が実証されている。2つ目のALDAY試験は、線維筋痛症患者3,600例以上を対象とした欧米における第Ⅲ相臨床試験で、プラセボとの比較で有意な鎮痛作用が実証できなかった。この段階で1勝1敗であった(いずれも論文未発表)。

川口 浩(かわぐち ひろし)

1985年、東京大学医学部医学科卒業。同大学整形外科助手、講師を経て2004年に助教授(2007年から准教授)。2013年、独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター・センター長。2018年、東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長。臨床の専門は脊椎外科、基礎研究の専門は骨・軟骨の分子生物学で、臨床応用を目指した先端研究に従事している。Peer-reviewed英文原著論文は300編以上(総計impact factor=1,510:2018年4月現在)。2009年、米国整形外科学会(AAOS)の最高賞Kappa DeltaAwardをアジアで初めて受賞。2011年、米国骨代謝学会(ASBMR)のトランスレーショナルリサーチ最高賞Lawrence G.Raisz Award受賞。座右の銘は「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」。したがって、日本の整形外科の「大樹」も「長いもの」も、公正で厳然としたものであることを願っている。

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