胃がんで終末期の60歳代男性がオピオイドを拒否③ あなたはどう考える? 薬剤師の在宅ケーススタディ vol.3 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする 私たちはこう考える 有限会社フクチ薬局 佐藤 香さん 思いを受け止め理解する人になる 医療人として、人生の最終段階にある人にどのように接したらいいのか? 寄り添い方や距離の取り方、患者さんご家族への対応など、考えるべき点はたくさんあります。私自身、うまく言葉にして伝えられないもどかしさや、無力感を感じるときもあり、終末期の患者さんのケアに対する苦手意識をなかなか払拭できずにいます。同じような思いの薬剤師も多いのではないでしょうか? 悩みや苦しみの感情は自分しか分からないと、Uさんが殻に閉じこもってしまうのは当然でしょう。Uさんのように、初めての訪問からたくさんの問題を抱えていらっしゃる方では、解決できない悩みや感情が原因となり、薬剤師が介入するのが難しい場合があります。ここでの介入の目的は、Uさんの身体的な苦痛を取り除き、安心してご自宅で穏やかに過ごしていただくことです。そこで、目的に近づくために、Uさんにとって『自分を理解してくれる人』になるように意識します。悩みや苦しみがある人は、たとえ解決できなくても、自分の思いを分かってくれる人の存在は嬉しいはずです。薬剤師が思いを受け止められれば、さらにその先にある目的=身体的な苦痛を取り除き、安心してご自宅で穏やかに過ごすことに近づくと考えます。 薬剤師が、苦しむ人から見て『自分を理解してくれる人』になるために、反復や問いかけの仕方など、さまざまなコミュニケーションの技法があります。薬剤師のスキルとして、援助的コミュニケーションが重要になっているのはみなさんもご存じの通りです。在宅療養において、さらに踏み込んだ終末期でのコミュニケーションスキルを、経験からだけでなく体系的に身に付ける必要があると考えています。 有限会社丸山薬局 大石 和美さん 患者のつらさに向き合いながら、時には後方支援に徹する まず、オピオイドを拒否している理由を考えてみたいと思います。オピオイドに良いイメージがないのか?痛みを我慢することと自分の余命を引き換えにしているのか?それとも、痛みの感覚が一般的な人と違うのか?終末期の患者さんは、痛みを「倦怠感」と感じる方が多いように思います。「今のしんどさを取るために、一度オピオイドを使ってみませんか」と声がけしてみるのもよいかもしれません。 お孫さんとの関係はどうでしょうか?時に、お孫さんがキーパーソンとなる例もあります。お孫さんを通してUさんの思いを聞いてもらうのも、お孫さんにとっていい経験になるかもしれません。 薬剤師は、薬を通して患者さんを見るケースが多いように思いますが、一度薬のことは横に置き、今のUさんのつらさを考えてみてはいかがでしょうか。そして、その「つらさ」を薬で取り除くことができるようなら、そのときには最適な薬剤提案をしてみる。 いずれにしても、Uさんに残された時間はそう長くないように思われます。Uさんに「いつもそばにいる支援者の1人ですよ」と伝えた上で、今回のように急に関わりを持たなければならなくなった場合には、ご家族や医師、看護師など他の専門職の後方支援に徹してもよいのではないかと思います。 有限会社フクチ薬局 福地 昌之さん 早い段階から人生の締めくくり方を共有するのが理想 この方と似たようなケースが、つい先日うちの薬局でもありました。支援を始めてから1年くらいたっていましたが、がんによる疼痛も落ち着いている状態で、発熱を時々繰り返すといった状態でした。その患者さんも、急激に痛みが出現し、がん性腹膜炎で亡くなられました。本当にあっという間の出来事でした。 同様の症例として、薬局薬剤師としてどんなアドバイスができるのかを考えてみました。 まず、痛みを取り除くことが先決なのですが、ご本人がどのように思っている(考えている)のかという点も、考えていかなければなりません。今まで一人暮らしで、なんでも1人でこなしてきたので我慢強い人なのかもしれませんし、人には迷惑をかけられないと考えている方かもしれません。メンタル的な面を含めて、今後どのようにしていったらよいか検討してみてもいいのではないでしょうか。症状が進む(痛みが増す)ことを考えると、娘さんとの同居も1つの提案となるかもしれません。 内服剤は服薬が難しければ、処方しなくていいと感じます。オピオイドは、貼付剤か注射でもよさそうです。悔いのない人生を過ごすためにも、笑顔のある日々を送らせてあげたいですね。 今後、このような在宅患者は増えていく傾向にあると思われますが、終末期の緩和ケアでは、痛みを取ることが主体になり、コミュニケーションの取り方は、患者さんと直接話すというより、キーパーソンとなる方との話し合いになるケースもあります。本当なら、そうなる前にご本人を交えて対応を相談しておくことが重要です。ですから、できれば人生の締めくくり方について、事前に自身の希望や考えをまとめておくエンディングノートを作成してもらい、その際に薬剤師も関わりを持てればよいのではと考えます。 終活は「万が一の時のため」「不安解消のため」ではなく、「これからの人生をどう生きるのか」、本人を含めその人を取り巻くみんなで考えなければいけないテーマです。2007年に公開された『最高の人生の見つけ方』という映画の中に、「彼の人生の最後の数カ月は、人生の最高の思い出です」というセリフがあります。患者さんにも、そう思ってほしいですね。 メディスンショップ蘇我薬局 雜賀 匡史さん 本人の希望を基に医療的介入を イレウスのある末期がん患者とのことで、薬剤師の役割が大きい事例ですね。予後の短い方の支援に当たる場合、まず確認したいのは本人が何を最も希望されているかです。それが痛みを取ることなのか、吐き気を抑えることなのか、食事を取ることなのか、バイクに跨ることなのか、最期まで自宅で過ごすことなのか。その希望に添った支援を考えていきたいと思います。 医療従事者はどうしても痛みを取り除いたり、吐き気を抑えたりという方向ばかりに気を取られます。病院は患者が医療を受けに来る場所ですので、入院中には最も良い医療を提供する必要がありますが、在宅における医療の位置付けは、あくまでも生活の一部だと思います。つまり生活が中心にあり、その中の1つに医療が存在します。在宅医療では最新最善の治療というよりも、今できる中で最良の治療が受けられるよう努める必要があります。 そのうえで気になった点を挙げます。吐き気というのは、痛み以上にQOLを低下させることがある症状です。この吐き気の訴えを改善するために、ドンペリドン坐剤でよいのか、精査する必要があります。ドンペリドン坐剤は機械的イレウスには禁忌ですので使えませんし、イレウスの閉塞部位によっても使う制吐薬は異なります。食道や胃・十二指腸での閉塞であれば、残念ながら薬の効果はあまり期待できませんが、小腸や大腸の閉塞であればオクトレオチドやステロイド、中枢性制吐薬などの方が効果を示すかもしれません。医師にイレウスの種類と閉塞部位を確認し、適した薬剤を提案する必要があると思います。また、イレウスの患者にオピオイドを使用するのは一定のリスクが伴いますので、医師がオピオイドを勧めている理由と、患者側が拒否している理由についてもはっきりさせたいところですね。 そしてタバコについてですが、タバコはCYP1A2を誘導し、薬物消失速度を上げます。しかし、Uさんの処方薬にCYP1A2で代謝されるものはないですし、末期がんということを考えると無理にタバコをやめる必要はないと考えます。 一方オロパタジンは、必要性を検討してみた方がよさそうですね。もし、閉塞性黄疸による痒みでオロパタジンが処方されているのであれば、抗ヒスタミン薬では十分な効果が得られていないのかもしれません。ブロチゾラムについても、日中時間帯にソファでうとうとされているようなので、服薬すべきかは生活状況を見ながら検討するとよいでしょう。 ご本人の希望を聞いた上で、医療的な介入についても考えながらサポートしていけるとよいと思いました。 ファーマライズ株式会社 ひまわり薬局 佐藤 一生さん 押し付けるのではなく「提案する医療」を 在宅ではさまざまなケースがありますが、私は基本的に以下の4つの視点から考えます。 1. 環境をみる 多くの方が医師の指示通りに服用する場面であっても、同意せずに固辞する方が存在します。Uさんも、ご本人なりの生き方(ナラティブ)、考え方、歴史があると思います。「押し付ける医療」ではなく、「提案する医療」を意識して接する必要がある方なのかなと感じました。 2. 生活をみる 親族とのコミュニケーションが希薄で、ご自身も寝室ではなくソファで眠るなど、「もともとそうした生活をされていた方なのか」「自身の状況を意識してそのような生活になっているのか」を知ることで、アプローチの仕方が変わるように思います。娘さんなどを通じて、どのような方なのか確認しながら、コミュニケーションを取ってみるとよいかと思います。 週単位の終末期とのことで、喫煙(ご家族の喫煙かも知れませんが)については、楽しみとして残しておいてもよいでしょう。 3. 体をみる 薬剤師の立場から丁寧に話をすることで、今まで拒否していた方法(気が乗らなかったこと、不要と考えていたこと、よく分かっていなかったことなど)を開始するようになる方も多いです。症状が急変したときつらくないように、違う薬(オピオイド)を始めてみてはどうかという点について、あらためて薬剤師の見解をしっかりと伝える必要があると思います。 食欲低下の理由としては、痛みの程度や吐き気の具合といった身体的な原因と、今後の心配をはじめ精神的な原因など、多数のファクターが複雑に関係している状況が考えられます。1人の人間として、冷静に対話し落ち着いて向き合うように心がけたいです。 4. 薬剤をみる オピオイド拒否の理由が分かれば、ラポール形成の糸口につながると思います。強い痛み止めに不安があるのか、痛みに関してどのように考えているのか、どうすることもできない状況に投げやりになっているのかなど、ご本人の思いに近づきたいですね。 薬物治療は、その人の人生にとって1つの手段でしかないことを認識させられる事例だと思いました。 次のページ:出題者はこう考える 前の記事:Uさんのデータを確認 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ×