何事も納得感を大事にする難聴の独居男性の残薬、どう対応する?③ あなたはどう考える? 薬剤師の在宅ケーススタディ vol.4 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする 私たちはこう考える 有限会社丸山薬局 大石 和美さん プロ同士、ともに対応を考える Aさん、プロフェッショナル(船大工)としての誇りを持って生きてこられたのですね。そして2人の娘さんを無事大きくなさり、また奥様を送られ、ご苦労もあったのではないでしょうか。まず、Aさんのこれまでの歴史をお聞きしてみたいと思います。苦労したこと、嬉しかったこと、お子様や奥様のこと、そして現在の心境など。ときには寂しい思いをしておられるかもしれません。そんな話を娘さんたちと共有したいです。 そして、今後の対応についてはプロ同士、まずは薬剤師の職能についてお話しするのはどうでしょうか。薬をきちんと飲んだり使ったりしてもらうこと、その上でお薬が効いているのか、効いていないのか。また、効き過ぎたり、思わぬ副作用が起こってはいないか。それをみるのが私たちの職能ですと、Aさんへの尊敬も忘れずにお伝えしたいです。 また、お薬を見えるところに設置するための薬箱を、一緒につくれるといいですね。それから、そこに薬を持ってきて一緒にセットしたい旨を、理解していただくのがよいかと思います。次回の訪問時に服薬コンプライアンスが悪いようなら、一緒に理由を考え改善していくという方策と取ってみてはいかがでしょうか。薬剤の適正使用に急を要する方ではないと考えましたので、まず薬剤師のことを理解してもらうのが先かと思います。 それと、吸入が必要かどうかも、医師に確認したいところです。 メディスンショップ蘇我薬局 雜賀 匡史さん 性格に合致する服薬管理を 私もこの方のような大工さんの居宅療養管理指導をした経験があるのですが、同じようにごみが出たり余計な物を置いたりするのを嫌がる方でした。大工さんは整理整頓が習慣になっているので、その癖が今も残っているのだと思います。この方も、きっと仕事熱心な大工さんだったのでしょう。 私が支援したときは、空き箱で薬を管理するボックスを自作し、そこに薬をセットしました。2週間後に訪問すると、いびつな形だった自作ボックスがきれいに直されていました。「あれ?これ、少しデザイン変わりました?」と聞くと、「出来栄えがあまり良くなかったからね。ちょっといじったよ」と言われ、さすが元大工さんだな~と感心しました。 この方は薬が余っているとのことですが、大工さん気質であれば、おそらく余るとか残すというのは嫌いなのではないでしょうか。それでも余っているのは、ご自身では、薬の飲み忘れも飲み残しもしていないと思っているのかもしれません。キーパーソンの次女も、父親はしっかりしていると思っているようなので、その辺りの認識が実際とはズレている可能性があります。 まず、ご自身と娘さんに、残薬があるということを認識してもらいます。そのためには、PTPシートではなく、一包化調剤にするのがよいと思います。一包化した袋に日付を印字することで、前の日付の薬が残っていれば一目で残薬であるという現実を受け止められると思います。 几帳面な性格だからこそ、そこを利用して服薬管理につなげることができるかなと考えました。 有限会社フクチ薬局 福地 昌之さん 本人の理解が得られれば、うまくいくケース この方の問題点として、以下のような点が頭に浮かびました。 ・薬がきちんと使用できていない・自分の生活環境について、他人の助言を受け入れない・納得しなければやらない まず、薬がきちんと使用できていない理由を探っていかなければなりません。考えられる理由としては、 ・薬そのものが嫌いである・使用するのを忘れてしまう・副作用が怖い・薬の数が多い・なんの薬だか分からない などが挙げられます。服薬のアドヒアランスを上げるために、一包化やカレンダーを利用する方法が考えられますが、おそらく納得しないのではないかと思います。この方が元船大工で几帳面な方であり、自宅の家具も手づくりしていることから、なんとなく想像がつきます。 それならば、「薬の飲み忘れをしないような物がつくれないだろうか?」といった相談を持ちかけてもよいかもしれません。自分が納得した物に薬を保管してもらうと、案外うまくいくような気がします。本人の理解が得られれば、病状をコントロールし、良好な関係を築いていけるケースではないでしょうか。 一方、難聴であることは気になります。耳が聞こえにくくなってくると、他の人が何を言っているのか分からず、薬の説明を受けても理解が難しくなり、自分の殻の中に閉じこもってしまうケースがあります。補聴器を使用しているか不明ですが、難聴への対応も検討してみてはどうでしょうか。 また、残薬が多いので薬の効果を確認すると同時に、本人が薬を把握できているのかも調べる必要があると感じます。在宅酸素の使用方法もきちんと理解できているのか気になります。もしかしたら、在宅酸素の使い過ぎがあるのかもしれません。耳鼻科で処方されているオツエナクリームは、在宅酸素が原因で鼻が乾燥して処方されているのかもしれません。 プラス薬局高崎吉井店 小黒 佳代子さん まずは残薬の理由の確認から 難聴がある在宅患者さんの対応は、根気が必要な場合があります。特に今回の症例のように、ご自身が納得されないと物事が進まない患者さんへの対応は大変でしょう。しかし、このような性格の方としっかりした信頼関係を築くことで、全てが一気に良い方向へ向かう場合もあります。 【なぜ残薬が生じてしまうのかを明確に】 残薬が生じる理由は、患者さんによってさまざまです。治療や処方理由、服薬方法に対する患者さんの理解度が低く服用・吸入できないのか、目の前にないため吸入を忘れてしまうのか、残薬があるのに薬をもらってきてしまうのか。あるいは、ご自分に病識がなく調子が良いために服用・吸入していないのか。 服薬状況を確認するために、他職種からも情報を得るようにしましょう。ご本人が納得されれば、いったん残薬を引き上げて、薬剤師の訪問サイクルに合わせご自宅に必要数を置くようにします。それで、症状と併せて残薬が生じる理由を確認しやすくなります。 この患者さんの場合、吸入方法を正しく理解されているか確認するため、訪問時に吸入を見せてもらうことも必要だと思います。難聴の患者さんは、口頭での説明だけでは理解できている素振りをしてしまうケースもあるので、吸入指導は必ず実施した方がいいでしょう。また、吸入指導中の会話から、ご本人の理解度や吸入しなかった理由が分かる場合もあります。 その上で、服薬カレンダーをつくって目に付くようにしたり(吸入はカードを使用)、患者さんが確認しやすいように服薬方法を工夫してはいかがでしょうか。冷所保存ではない吸入剤に変更し、内服剤と一緒に管理してもらうようにするのもよいでしょう。 COPDは増悪を繰り返しながら悪化していく病気ですし、この患者さんは心不全も合併しているようなので、呼吸状態を良好に保つことが重要です。根気よくその点を訴えながら、COPDによる体重減少についても他職種と連携して見守っていただきたいと思います。 【難聴への対応】 補聴器は使用されているのでしょうか。調整されていない補聴器を使っている、または調整されていないために使用していない患者さんは少なくありません。きちんと調整し聞こえるようになれば、使用してくれると思います。集音器などを利用するのもよいでしょう。私は、訪問用のバックに常備しています。難聴患者さんのご家族への対応にも便利です。きちんと聞こえることによって、信頼関係が構築できる場合もあります。 ファーマライズ株式会社 ひまわり薬局 佐藤 一生さん 予防や今後を見込んだ視点を持って説明を 在宅ではさまざまなケースがありますが、私は基本的に以下の4つの視点から考えます。 1. 環境をみる 生涯職人として暮らしてきた人生が垣間見えます。納得しないと受け入れない点については、医療も同様だろうと感じました。本人の行動、考え方、ひいては価値観を無理やり変えることなく、今後どのように薬とお付き合いしていくのか、未来の視点を持って薬剤師が説明していく姿勢が重要だと感じました。 2. 生活をみる 服用を完全に拒絶しているわけではないことから、薬を使った方がよいという点には、一定の理解があるはずです。現在の状態が本人にとって危機的なものではなく、少し無理をすればやりたいことができる状態だということを示しているのかもしれません。現状の問題を説明するよりも、予防の視点で、これから先のことを伝えてみたいと思いました。 3. 体をみる 難聴の背景も影響し、薬剤師によっては対話の面で怖さを感じるかもしれません。薬剤師自身も素直に、親身に接する姿勢が大切でしょう。 呼吸器疾患と逆流性食道炎には相関関係がある場合が多いです。例えば、呼吸苦を緩和するようなエピソードに薬剤師が関わることができれば、大きな変化が見られるかもしれないと感じました。 4. 薬剤をみる 疾患や薬剤などの個別の事情より、ご本人とのコミュニケーションをより優先したいと考えます。無理に飲ませようとあれこれ策をめぐらせず、ご本人の趣味や特技にも触れ、本気で向き合ってみたいと思いました。 次のページ:出題者はこう考える 前の記事:Aさんのデータを確認 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ×