ふたつの気持ちのあいだ―失敗を語る先輩 

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「夫婦のことは外からはわからん。離婚した方がいいなんて絶対に言うたらあかんぞ」。

 外来診療を始めたばかりで、ことあるごとに先輩たちに尋ねてなんとか診察をこなしていた医師2年目の私に、その先輩は失敗談を交えて診察の知恵を教えてくれた。

「診察で夫の悪口を繰り返し繰り返し言うもんやからうんざりして、『そんなに嫌なら離婚したらええ』と言うたんや。そしたらホンマに離婚してしもて、その後は『離婚せんほうがよかった、先生が言うたから離婚した、先生のせいや』と診察のたびに言うようになって難義しとるんや」と先輩は顔を歪めた。

胡桃澤 伸(くるみざわ・しん)

精神科医・劇作家

1966年、長野県生まれ。95年から神戸大学精神神経科での勤務を開始。その後、大阪、東京、千葉の病院に勤務。専門は統合失調症、外傷性精神障害。劇作家として「くるみざわしん」の筆名で関西を中心に上演を続けている。「同郷同年」が「日本の劇」戯曲賞2016と第25回OMS戯曲賞大賞、「忠臣蔵・破 エートス/死」が2019年文化庁芸術祭賞新人賞を受賞。共著に『中井久夫講演録 統合失調症の過去・現在・未来』、近著に『くるみざわしん 精神医療連作戯曲集 精神病院つばき荘/ひなの砦 ほか3篇』(いずれもラグーナ出版)がある。

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