病気を治さない美容外科に医師免許は必要か

「直美」が増殖する医療界の歪み

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「直美」は社会的信義に反する

 医療の使命は国民の健康を守ることであり、医師は「病気やけがを治す」職業である。しかしながら近年、2年の初期研修を終えてすぐに「病気もけがも治さない」美容外科に進む「直美(ちょくび)」を選択する医師が増えている(関連記事「やっぱり? 増加中の"直美"、多くの医師が懸念」)。

「年間200人程度」という「直美」の医師数は、国が医師偏在是正を目的に最近新設した東北医科薬科大学(2016年)と国際医療福祉大学(2017年)を合わせた1学年分の医学生が、そっくりそのまま「直美」に流出したことになる。また、全国チェーンの「TCB東京中央美容外科」単独での2022年医師採用実績は119人と公表されているが、この数は、大学病院研修医採用数ベスト3の東京大学(97人)、東京医科歯科大学(現・東京科学大学、94人)、京都大学(75人)を軽く超えている。

 医学生を医師にするまでにかかるコストは1人当たり約1億円といわれている。そこには当然、公的資金が投入されている。「国民の病気やけがを治す」という使命を放棄した若い医師の増加は、社会的信義に反するという誹りを免れない。

川口 浩(かわぐち ひろし)

1985年、東京大学医学部医学科卒業。同大学整形外科助手、講師を経て2004年に助教授(2007年から准教授)。2013年、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター・センター長。2019年、東京脳神経センター・整形外科脊椎外科部長。2023年、社会医療法人社団蛍水会 名戸ヶ谷病院・整形外科顧問。臨床の専門は脊椎外科、基礎研究の専門は骨・軟骨の分子生物学で、臨床応用を目指した先端研究に従事している。Peer-reviewed英文原著論文は340編以上(総計impact factor=2,032:2023年7月現在)。2009年、米国整形外科学会(AAOS)の最高賞Kappa Delta Awardをアジアで初めて受賞。2011年、米国骨代謝学会(ASBMR)のトランスレーショナルリサーチ最高賞Lawrence G. Raisz Award受賞。座右の銘は「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」。したがって、日本の整形外科の「大樹」も「長いもの」も、公正で厳然としたものであることを願っている。

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