今年(2025年)2月と3月に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経口治療薬エンシトレルビル(商品名ゾコーバ)の臨床効果に関し、相反するような2つのプラセボ対照比較試験の結果が報告された。1つは、入院に至らない軽症~中等症のCOVID-19発症例における投与でエンシトレルビルの臨床的優越性が示されなかったという成績1)、もう1つは、COVID-19曝露例に対する予防投与でエンシトレルビルが有意に発症を予防したという成績である2, 3)。本稿ではこれらの成績を紐解き、エンシトレルビルの有効性の是非と予防薬としての新たな可能性について迫る。