非HIV免疫抑制患者のPCP、ステロイド併用は妥当か?

P(患者は誰か)が異なる場合のエビデンスの構築

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

(© Adobe Stock ※画像はイメージです)

研究の背景:非HIVのPCP、HIVのPCPと同列に扱ってよいのか?

 ニューモシスチス肺炎は、かつて「カリニ肺炎」と呼ばれていた。Pneumocystis cariniiが原因だったからで、P. carinii pneumonia、PCP(ピーシーピー)とも呼ばれる。菌名がP. jirovecii(ジロベチアイ、みたいに読む)に変わってしまったために「ニューモシスチス肺炎」と改名された。さすがに「ジロベチアイ肺炎」だと語感が悪過ぎたらしい。知らんけど。略称はPneumoCystis pneumoniaということで、PCPと呼ばれ続けている。「菌名コロコロ変える病」もたいがいにしてほしいものだ。

 PCP治療はST合剤を使うのが標準的だが、低酸素血症を伴うPCPであればステロイドの併用が推奨される。これは、1990年のクラシックなランダム化比較試験(RCT)の結果に基づく。エイズ患者の重症PCPに対してステロイドを併用すると、院内生存率が75% vs. 18%と圧倒的にステロイド併用群がよかったのだ。わずか23例が参加したRCTだったが、その結果は劇的〔治療必要数(NNT)が2未満!〕でNEJMにも載り、われわれ専門家の「必読論文」になった(N Engl J Med 1990; 323: 1444-1450)。まだ抗ウイルス療法(ART)が完成する前の論文であり、エイズが「死に至る病」だった時代のことだ。

 かくて、エイズ患者の重症PCPにステロイド併用は異論のない標準治療となったのだが、問題はHIV感染のない免疫抑制患者のPCPである。比較的まれな非HIVのPCPでは、ステロイドの効果を吟味した堅牢なエビデンスはなかった。われわれは、HIV関連PCPからの類推でステロイドをまあまあ併用していたのだが、発症が急で死亡率も高い非HIVのPCPとHIVのPCPを同列に扱ってよいのか? という疑問は残り続けた。

 この疑問に答えようとしたのが、今回紹介する論文である。

Lemiale V, et al. Adjunctive corticosteroids in non-AIDS patients with severe Pneumocystis jirovecii pneumonia (PIC): a multicentre, double-blind, randomised controlled trial. Lancet Respir Med 2025年7月10日オンライン版.

岩田 健太郎(いわた けんたろう)

神戸大学大学院医学研究科教授(微生物感染症学講座感染治療学分野)・神戸大学医学部付属病院感染症内科診療科長

1971年、島根県生まれ。島根医科大学卒業後、沖縄県立中部病院、コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院、アルバートアインシュタイン医科大学ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より現職。著書に『悪魔の味方 — 米国医療の現場から』『感染症は実在しない — 構造構成的感染症学』など、編著に『診断のゲシュタルトとデギュスタシオン』『医療につける薬 — 内田樹・鷲田清一に聞く』など多数。

岩田 健太郎
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