研究の背景:私の原体験―理学療法は診療の根幹 私が医師となり、最初に師事したのは黒澤尚先生(元・順天堂大学整形外科教授)である。 黒澤先生の教授外来は常に多忙であったが、その中でも先生は一人ひとりの患者の前に立ち、自ら膝を触り、大腿四頭筋訓練を中心とした膝体操を実際にやってみせ、患者にもその場で実践させていた。 「人工関節になったら医師の負け」 「患者さんの身体を、必ず触りなさい」 これらの言葉は、当時の私には厳しく響いたが、今振り返ると整形外科医としての礎であったと感じている。 画像に頼る前に身体を診ること。 手術を考える前に、運動を指導すること。 そして、患者自身が自分の身体を動かし続けられるよう導くこと。 この原体験があるからこそ、私は理学療法を単なる治療手段ではなく、診療の根幹と捉えてきた。 変性半月板損傷は中高年に極めて頻度が高く、変形性膝関節症(OA)と併存することも多い。MRIを撮像すれば半月板断裂が見つかることは珍しくないが、それが疼痛の主因であるかどうかは必ずしも明らかでない。 これまでのランダム化比較試験(RCT)では、変性半月板損傷に対する関節鏡手術は、運動療法を中心とする理学療法と比較して長期成績に優位性がないことが示されてきた。そのため、現在のガイドラインでは保存療法、特に運動療法が第一選択とされている。 しかし、ここで1つの疑問が残る。 理学療法の効果は「運動そのもの」によるのか、それとも「理学療法士と定期的に関わること」によるのか。 この問いに正面から取り組んだのが、TeMPO試験である(N Engl J Med 2025; 393: 1694-1703、関連動画)。