研究の背景:臓器温存の鍵はTNT後の評価 局所進行直腸がん(LARC)の術前治療は、total neoadjuvant therapy(TNT)の登場により再編が進んだ。TNTは、従来術後に行われていた全身化学療法を術前に前倒しし、放射線治療と組み合わせることで、遠隔再発リスクの高い集団において全身制御を強化しようとする戦略である。 この潮流を決定付けたのが、短期照射後に化学療法を行いtotal mesorectal excision(TME)へと至るRAPIDO試験(Lancet Oncol 2021; 22: 29-42)、mFOLFIRINOXを組み込むPRODIGE 23試験であり(Lancet Oncol 2021; 22: 702-715)、いずれも術前に全身治療を前倒しすることの臨床的意義を示した。さらに、TNTは単に予後指標の改善にとどまらず、臨床的完全奏効(cCR)例の手術を回避するnon-operative management(NOM、watch-and-wait)という選択肢を提示した。TNT後の反応に基づきNOMを選択する臓器温存戦略を検討したOPRA試験(J Clin Oncol 2022; 40: 2546-2556)は、これらの背景にある設計思想を象徴するものといえよう。 日本でもTNTの前向きデータが蓄積されつつある。第Ⅱ相試験であるENSEMBLE-1(短期放射線治療後にCAPOX地固め)およびENSEMBLE-2(長期化学放射線療法後にCAPOX地固め)は、日本人LARC例におけるTNTの安全性や短期腫瘍学的アウトカムを提示し、国内でも実装可能な治療設計であることを示した。現在、地固め化学療法を2剤併用から3剤に強化し、臓器温存も織り込んだアウトカムで優越性を検証する多施設第Ⅲ相ランダム化比較試験ENSEMBLEが進行中である(ESMO Gastrointest Oncol 2023: 1: 9-14)。 このようにTNTの幅が増えるほど、治療反応の評価がポイントとなる。特にNOMを選択する場面では、臨床的評価(画像、内視鏡所見など)での判断を、いかに客観性を持たせ不確実性を減らすかが鍵となる。今回取り上げるNO-CUT試験は、TNTにおける反応評価と分岐戦略を前向きに検証した、実装上極めて示唆に富む研究である(Lancet Oncol 2025; 26: 1612-1625)。 〔編集部注〕 CAPOX:カペシタビン+オキサリプラチン併用療法mFOLFIRINOX:オキサリプラチン+イリノテカン+レボホリナートカルシウム+フルオロウラシル併用療法