シップヘルスケアファーマシー東日本株式会社川村 和美 患者さんの望みに応えるか、医師の指示に従うべきか...。どのように判断したら適切なのだろうとモヤモヤしたことはありませんか? とりわけ、"倫理的判断"に迷う場面においては、直感に基づく判断をせず、そのケースをさまざまな側面から幅広く検討し、より望ましい決定をするというプロセスが重要になります。 さて、今回は「治療とは関係のない長い話をする患者さん」のケースです。薬剤師として、どのように対応すればよいでしょうか。 このケースの詳しい状況説明や、薬剤師が倫理的に判断するために必要な5つの視点からの解説はこちらに掲載しています。※(関連記事)『絶対に誰にも言わないで』 それぞれの対応は望ましい? このケースを考える上で大切な、5つの視点から解説していきます。※(関連記事)倫理的に判断するための5つの視点とは? <img alt="a.JPG" src="https://asset.mtweb.jp/rensai/filesknowhow/diagnosis-judgement/a.jpg " width="33" height="32" class="mt-image-left" style="float: left; margin: 0 20px 20px 0;">Dさんの治療上、必要不可欠な情報なので、関係者間で直ちに共有する。 この方法は、患者の視点、状況の視点、QOLの視点が不足しています。Dさんなりに、長年の食事制限による栄養の偏りを気にして、栄養ドリンクを継続的に摂取しているとか、糖尿病になる前からずっと摂取してきたといった理由があるのかもしれません。守秘義務違反という法的問題を考えても、関係者間で情報を共有する前に、栄養ドリンクを継続的に摂取している理由を聞く必要があるでしょう。 <img alt="b.JPG" src="https://asset.mtweb.jp/rensai/filesknowhow/diagnosis-judgement/b.jpg " width="35" height="31" class="mt-image-left" style="float: left; margin: 0 20px 20px 0;">関係者間で情報を共有するが、Dさん本人には知られないように接してもらう この方法は、関係者の視点、状況の視点、QOLの視点が欠けています。Dさん本人には知られないように接してほしいと依頼した場合、それぞれの関係者はどう感じるでしょうか? 皆が同じように、本人には知らせてはいけないと考えてくれるとは限りません。もしも、他の医療者がDさんに栄養ドリンクの摂取を注意するようなことがあれば、あなたへの信頼は失墜するでしょう。信用できない医療者に囲まれ、猜疑心に苛まれたDさんの入院生活は、心地よいものではなくなってしまう可能性もあります。 <img alt="c.JPG" src="https://asset.mtweb.jp/rensai/filesknowhow/diagnosis-judgement/c.jpg " width="38" height="32" class="mt-image-left" style="float: left; margin: 0 20px 20px 0;">関係者に安易な情報共有をすると、誰かがDさんに言ってしまうかもしれない。そのリスクを最小限に留めるため、主治医にのみ情報を伝える。 この方法も本質的にはbと同様です。関係者の視点、状況の視点、QOLの視点が不足しています。主治医がDさんを咎めたり、注意するようなことがあれば、あなたへの信頼は損なわれ、同じ問題が生じるでしょう。さらに、情報を隠された看護師や他の職種は、決していい気持ちにはならないでしょうし、あなたへの信頼が揺らぐかもしれません。他者の生命を預かる医療において、隠す情報や隠す相手が多いほど、リスクが高まるということを忘れてはなりません。 <img alt="d.JPG" src="https://asset.mtweb.jp/rensai/filesknowhow/diagnosis-judgement/d.jpg " width="34" height="31" class="mt-image-left" style="float: left; margin: 0 20px 20px 0;">糖尿病治療は本人の意識が何よりも重要なので、Dさんに栄養ドリンクを止めるよう説得する。すぐに止めてもらえたら、この情報を共有しなくても済む。 この方法は、薬学的な視点、関係者の視点、状況の視点が不十分です。 Dさんのように強い摂取の希望がある場合、糖類ゼロの商品やビタミン剤などを代替にオススメするとよいかもしれません。 また、すぐに栄養ドリンクの摂取を止めたとしても、治療上、これまで毎日摂取していたという情報は欠かせません。主治医にしてみれば、血糖コントロールが突然安定したり、インスリンの投与量を減らさなければならなくなった場合、その理由がわかりません。主治医の正しい判断を支援するためにも、正確な情報は必要不可欠です。 <img alt="e.JPG" src="https://asset.mtweb.jp/rensai/filesknowhow/diagnosis-judgement/e.jpg " width="33" height="31" class="mt-image-left" style="float: left; margin: 0 20px 20px 0;">Dさんを裏切るわけにはいかないし、Dさんの気持ちを大切にしたいので、誰にも言わないでそっとしておく。 この方法は、患者さんの視点以外、すべての視点が欠落しています。糖尿病の治療上、急激な血糖上昇の可能性が危惧される栄養ドリンクの継続摂取を知りながら、何も介入しないというのは、医療者として適切ではありません。知りながら黙っていたことが分かれば、主治医や担当看護師のみならず、協働する医療者にもネガティブな印象を与えるでしょう。黙認の結果、Dさんの血糖コントロールが悪化したり、合併症を起こした場合、法的に問われる可能性もあります。 望まれる対応は? 安易に情報を共有してはいけない、でも、黙っていてもいけない、それならどうすればいいの?と思った方もおられたことでしょう。 具体的にどうすればよいかと言えば、まずはDさんに栄養ドリンクを摂取している理由や、栄養ドリンクに期待していることなどを尋ねしましょう。次に、習慣的摂取のリスクを説明し、心配している自分の気持ちを素直に伝えてみましょう。 その上で、適切な治療を選択するために、そして最良の判断をするために、栄養ドリンクを摂取してきたことを、担当者で共有させてほしいとお願いします。このとき、患者さんの心配を払拭するために、誰かに怒られたり、咎められたりすることは決してないと伝えます。 それを保証する手段として、カンファレンス等できちんと説明し、カンファレンスの不在者にも情報が十分に行き届くよう、徹底した情報共有と確認を行います。 まずは患者さんの価値観を教えてもらうこと。次に、情報共有について、患者さんの了承を得ること。そして、患者さんが大丈夫だと思える環境を保証すること。この3つを準備すれば、患者さんも「ありのままを話すことが自分のためになる」とご理解くださるはずです。 対応策のアイデア 患者さんの価値観を教えてもらうこと情報共有について、患者さんの了承を得ること情報が漏れても大丈夫だと思える環境を保証すること この3つを準備すれば、患者さんは、「正しく話すことが自分のためになる」と考えてくださるでしょう。