認知機能が低下した服薬1日5回の男性③ あなたはどう考える? 薬剤師の在宅ケーススタディ vol.2 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする 私たちはこう考える ファーマライズ株式会社 ひまわり薬局 佐藤 一生さん 残薬の背景を多角的に検討する 在宅ではさまざまなケースがありますが、私は基本的に以下の4つの視点から考えています。 1. 環境をみる 一軒家に独居ということですが、1人での生活にどの程度対応できているのか(日常生活動作:ADL)を知っておきたいです。安否確認や見守りの体制、娘さんの受診以外の来訪頻度やBさんとの関係の深さは把握したいですね。それから、数カ月残薬がありながら、なおも処方され続けていることは問題です。医師によるコミュニケーションが不足している可能性があります。「医師の立場からも患者の生活状況、服薬状況を確認する」という視点を持ってもらうことが必要だと考えます。 2. 生活をみる 認知症の程度から、薬の自己管理ができているのか、保管場所を理解しているのかを確認したいです。また、ライフサイクルを考慮して、どの時間帯なら服用頻度が上がるか検討したいです。その上で、食事の時間・回数によって、用法や薬剤の工夫や変更の他、毎朝訪問されているヘルパーさんに服薬支援をお願いするといったことが検討できます。 3. 体をみる 認知機能低下により、PTPシートの薬の自力服用が困難になったとのことですが、薬を取り出せるのかといった身体的背景と、嚥下機能低下の有無も確認したいです。糖尿病による口渇が進んでいないかも知っておきたいですね。また、「薬が飲みにくい」「食塊が満足につくれない」「不快な味覚を感じた」といった体験による服用中断がないかどうかも、確認が必要でしょう。 認知症ということから、分かったふりをしたり取り繕う行動を取ることも考えられるので、他職種の方からも情報を得ながら状況を判断していかなくてはいけません。 よかれと思って行った工夫や処方変更であっても、ご本人が変化に対応できるかどうかを見守りながら進めないと、逆効果になる場合があります。継続的なモニタリングは必須だと考えます。 4. 薬剤をみる:用法修正、服薬の複雑さを緩和、それに適応できるかどうか 1日5回の服用を生活サイクルに応じて1日1回、できればヘルパーさんの支援を得られる朝食前のみの服用まで集約したいです。見守り体制の1つとして、写真のような服薬支援ロボットの使用や、服薬カレンダーなどを活用した一包化も検討できます。一包化した薬包に日付が記載してあれば、飲み終えた薬包を保管してもらい、飲み忘れがないかを確認するのもいいですね。 また、Rp.1~5全ての薬剤にいえることですが、検査値を確認し、数値によっては減薬を考えたいです。逆に、アドヒアランスが改善された場合はoverdoseになる可能性があるので、どう対応すべきかについては注意が必要です。 (佐藤一生氏提供) 有限会社フクチ薬局 福地 昌之さん 図を使って、まずは情報を整理 (福地昌之氏提供) 上記のように図を描くと、ついつい医薬品の服用回数の方に目がいくのですが、よく見ると下の矢印の方向にある、「環境」「生活」「介護・ADL」に関する項目の情報がほとんど得られていません。そこで最初に、Bさんを取り巻く在宅医、訪問看護師、訪問介護士などの他職種の方々と担当者会議を開き、情報共有をしたいです。認知症が進んで服用困難になっていることから、薬の減量と服用方法の簡易化を提案したいですね。 対象は糖尿病治療薬です。1日3回毎食前の服用は、認知症の患者さんにとっては難しいですし、グリメピリドは低血糖のリスクを考慮して、他剤への切り替えを検討した方がいいでしょう。 もう1つ気を付けたいのは、食事がきちんと取れているかを確認することです。年齢的に考えれば、血液検査データなどを確認した上で、アトルバスタチン錠が本当に必要かを考えてもよさそうです。服用するのであれば、夕方ではなく朝食後の服用でもよいのではないでしょうか。糖尿病治療薬も1日1回となれば、ヘルパーさんに服用の支援をお願いすることが可能になり、飲み忘れは減ると思います。 それと、今後、薬剤師がフォローしていくこととして、患者さんの意向の聞き取りも挙げられるでしょう。今のうちから、どのような終末期を送りたいのかを考えてみてもよいと思います。 プラス薬局高崎吉井店 小黒 佳代子さん 身体状況を確認しつつ、今後に対する考えを把握 薬剤がこれだけ処方されていながら服用されていない点からは、薬剤師としては、血糖コントロールがどうなっているのかが気になります。また独居ですし、食事や入浴などの状況はどうなのか、身長や体重なども確認したいと思います。認知機能低下だけでなく、食事を取っていないために服用していないのかも知れません。 ケアマネジャーに残薬が数カ月分あることを報告し、担当者会議の開催を依頼して、病態を把握した上で、他職種と協力したりデイサービスなども利用しながら、服用できる薬剤の選択を医師に提案したいです。 最も気になるのは、独居で引きこもりがちのご様子です。今後、どのように過ごしていきたいと思っているのでしょうか? お嬢様にもお話を伺いながら、お元気だったころのことからBさんのお気持ちや人生観、なさりたいこと、したくないことなどについてお話ししたいと思います。 有限会社丸山薬局 大石 和美さん 慎重に処方薬を整える まずは、ご本人が今後のことをどのように考えておられるか? この一軒家で一人暮らしを続けたい理由があるのか? 娘さんは一緒に暮らせないのか? といったお考えや状況を確認したいです。また、要介護3でこのような現病歴がある方でしたら、早めの施設入所準備をするのもありかな、と思います。 次に、かかりつけ医の治療方針はどうか。SU薬については、できれば他剤への切り替えを検討してもらえるよう、かかりつけ医が納得できる方策でアプローチしたいですね。 ヘルパーさんのサービス内容が分かりませんが、数カ月の飲み残しがあってもご本人の様子に特に問題がなかったのであれば、全ての薬剤がきちんと飲めるようになると副作用などの問題が出るかもしれません。可能なら、短期入院で服用する薬剤を整えてから、在宅での薬物治療を引き受ける。または、ショートステイを利用して24時間の様子を確認してから、服用の簡素化を提案するという方法もあります。Bさんのように、今までかかりつけでなかった方への介入は、特に慎重にならざるをえません。 なお、アルツハイマー型認知症とのことで、便通の様子が気になります。トイレの場所を認識していないのか、便通を感じにくくなっているのか。便秘の背景を把握したいですね。 有限会社フクチ薬局 佐藤 香さん 生活を極力変えず低血糖を回避 認知症の有無にかかわらず、1日5回しっかりと忘れずに服用するのは難しいです。初めての訪問時に数カ月の残薬があったということから、相当の飲み忘れが予想されます。薬剤師は、処方された薬を正しく忘れずに服用してもらうという点に注目しがちですが、今回の場合、薬剤師が介入することで急に服薬コンプライアンスが改善し、今まで現れなかった副作用が発現するかもしれません。そこで一番気を付けたいのは低血糖です。 また貧血もあることから、日常の食事量を把握したいと考えます。毎朝ヘルパー訪問があり、食事の準備を行っているかもしれませんが、日中の間食や認知症に特有の偏食がないかにも注意が必要です。初回訪問時に合わせて、食べ物の好き嫌いや義歯の有無の聞き取りを行うことで、食生活の背景が見えるケースもあります。ご本人にお願いして、冷蔵庫を見せてもらってもいいかもしれません。 これらのことを踏まえ、処方提案を行う準備として、医師に服用状況と食生活の状態を報告します。その上で、SU薬、食前薬の処方変更、DPP-4阻害薬への変更提案、服用回数の変更、服薬の見守り依頼などを試みたいと思います。Bさんの生活を極端に変えず、ストレスにならないように、低血糖の発現回避と栄養状態の改善を行っていきたいです。 次のページ:出題者はこう考える 前の記事:Bさんのデータを確認 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ×