田舎ということを言い訳にしない

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「田舎は大変ですね」

 これは、いろんなところで出会った薬剤師によく言われる言葉です。確かに、紛れもない事実かもしれません。おそらくは「人が少ないこと」「学習の機会が少ないこと」などを指しているのだと思います。ただ、私はこれを人前での言い訳に使わないと決めています。これを言ったら全て片付いてしまうのです。今回はこの、「人が少ないこと」「学習の機会に恵まれていないこと」について書いていきたいと思います。

fugu_icon_purple.jpg人が少ないこと

 田舎では薬剤師はなかなか集まらないところが多いのではないかと思います。当院は現在、薬剤師5名(正職員2名、パート3名)と、最低限の業務をこなす人数は確保できていますが、私が当院に入職するまでは、しばらくの間、正職員が1名でしたし、2年前には1年間ほど正職員が私1人のこともありました。そのため、最近ようやく薬剤管理指導料の算定が始まったところで、病棟常駐というのは夢の世界です。あと1人いればなんとかなりそうですが...どなたか...

 それに、現在の5名のうち3名は50代後半以上ですので、今後どうなるのか...という漠然とした不安もあります。特に、福井県は全国的にも薬剤師が少ない県(人口10万人当たりの薬剤師数は、沖縄、青森に次ぐワースト3位)ですので、全県的に薬剤師は不足しています。

 また、少ないのは薬剤師だけではありません。医師も看護師もその他の医療・介護職も同じです。なので、それぞれが大変な時はカバーしあっています!と言いたいところですが、薬剤師はズバ抜けて少ないので、助けてもらってばかりです。ありがたいことなのですが、情けない話で...

kani_icon_redpurple.jpg学習の機会に恵まれていないこと

 いわゆる「講演会」や「研修会」といった学習の機会というのは本当に少ないです。地区の薬剤師会主催のものも医師会主催のものも、年に数回あるくらいです(これも協賛の問題でだんだん減っていっています)。

 県の薬剤師会や病院薬剤師会が主催している研修会はそれなりに行われていますが、ほとんどが県庁所在地である福井市で開催されているのが現状です。私の住む高浜町から福井市までは車で1時間半かかりますし、交通費もかかりますので参加は容易ではありません。そんなこともあって、時々、県外の研修会や学会に参加していますが、お金と時間という面では、かなり不利なように思いますし、機会や情報の格差が生じているような気がしてなりません。

takahama3_fireworks.png私の住む高浜町では年に2回の花火大会(7月中旬に行われる「若狭たかはま漁火想」、毎年8月1日に行われる「若狭高浜花火大会」)があり、今年も開催されました。都会の花火大会ほど規模は大きくありませんが、人が少ないので浜辺でゆっくり見ることができます。今年は都合が合わずにどちらにも参加できませんでした。残念。。。

tai_icon_red.jpg不利な条件はいつでも使える言い訳として取っておく

 完全に不利なことだらけですが、一度、逆に考えてみます。

 人が少なくて良かったこと。なかなか難しいですが、いろんなことが経験できるのが一番ですかね。何もかもをしないといけないとも言いますが。あと、すぐに名前を覚えてもらえますし、比較的、人の距離は近いような気がします。当院の周りの薬局は少ないですので、コミュニケーションを取ったり、お願いをしたりはしやすいかもしれません。

 学習の機会に恵まれていないことに関しては、いいことはほとんどないですね。その分、1回1回を大切にしているのかもしれません。そうでもないか...

 うーん、やっぱりあまりいい面は見つからないですね...

 どう考えても、田舎であるがゆえの「人が少ないこと」「学習の機会に恵まれていないこと」は事実ですし、不利な条件のように思います。なので、できない理由としては十分に成立します。ただ、この不利な条件はいつでもできる言い訳です。だいたいこの言い訳をすれば「じゃあ仕方ない」と言ってくれると思います。「田舎は大変ですね」と言ってくる人は、こういった言い訳を期待しているのかもしれません。だから、この言い訳はいざという時に取っておいて、普段はそれに負けじと努力や工夫をすることが必要なのではないかと思います。そもそも、好きでこの地にいるわけですから(仕方なくいる方もいらっしゃるかとは思いますが...)。

 でも、あまり強がってばかりいると疲れてしまうので、時々は言い訳として使って、自分を解放してあげることも大切だと思います。これはこのことだけじゃなくて、あらゆることに当てはまることだとは思います。

 学習の機会に関しては、例えばインターネットを上手く利用することで、その差を埋めることができるのではないかと思います。

 最近ではe-learningが活発になってきたり、製薬メーカー各社がwebセミナーを盛んに行っていたり、メーカーのホームページが充実してきて、さまざまな学術情報が閲覧できるようになってきています。また、FaceBookやtwitterに代表されるようなSNSからもたくさんの情報を得ることができますし、ブログを書く医療者も増えてきており、置かれる環境に左右されずに済むようになってきています。

 ただ、やはりその場にいるからこそ感じられるものや、同じ場所に居合わせた人とコミュニケーションが取れるという点では、集合研修や学会のような形の方が優れているのかもしれません。

 私自身、このような問題点に気づいた者として、今後は機会や情報の格差を少なくできるような取り組みに携わっていきたいと考えております。

【コラムコンセプト】

たくさんある薬剤師としての働き方の中から選んだ、地域に根ざして働く病院薬剤師。地域に対して何ができるのだろうかと日々考えながら業務をしています。田舎はたいへんなことも多いけど、田舎ならではのおもしろいこともすごく多いです。何か目立つことをするわけではなく、地味に細々と活動している薬剤師がたくさんいることを知っていただき、同じような境遇で働く薬剤師を少しでも勇気づけることができれば幸いです。

【野田学氏プロフィール】

NodaManabu.jpgJCHO若狭高浜病院薬剤科所属。薬学部卒業後、7年間の山口県でのチェーン調剤薬局勤務を経て、地元である福井県の病院に勤めだして5年目。生まれ育った人口1万人ほどの自然豊かな小さな町にある唯一の病院で、のほほーんと勤めながら、薬剤師・医療者・地域住民として自分に何ができるのかを日々模索中。ブログで地域での活動の様子や日々の業務で考えたことなどを書いています。

ブログ:リンコ's diary 田舎の地域医療を志す薬剤師

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