幻覚性キノコ成分でうつ病治療の可能性

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研究の背景:より受けやすい治療法が求められる治療抵抗性うつ病

 うつ病に有効な抗うつ薬は数多くあるが、複数の抗うつ薬を十分量投与しても改善しない治療抵抗性のケースも少なくなく、うつ病患者のおよそ30%が治療抵抗性と報告されている(J Clin Psychiatry 2021; 82: 20m13699)。難治性うつ病の治療として現在日本で行われているのは修正型電気痙攣療法である。有効性が高い半面、通常は入院を必要とし記憶障害の副作用が出ることがあるなど、患者がより受けやすい治療法の開発が期待されるところである。

 麻酔薬であるケタミンの低用量投与が、即効性があり有効性の高い抗うつ治療となることが報告され、既に米国ではesketamine(ケタミンの光学異性体であるS体)の点鼻薬(Spravato)が承認されている。ただしケタミンは、基礎研究で統合失調症の動物モデルに用いられた際に、精神病症状や解離症状などの副作用が報告され、日本では麻薬指定されているなど、手放しで期待できるかどうかは予断を許さない薬でもある。さらに、日本で行われた治療抵抗性うつ病を対象とする、esketamineの抗うつ薬に対する上乗せを検証した二重盲検ランダム化比較試験では、有効性が示されなかった(BMC Psychiatry 2021; 21: 526)。

 こうした中、最近海外では、「マジックマッシュルーム」と呼ばれる幻覚作用を持つキノコに含まれる成分psilocybinに注目が集まっている(N Engl J Med 2022; 387: 1637-1648)。

加藤 忠史(かとう ただふみ)

 順天堂大学精神医学講座主任教授。1988年東京大学医学部卒業、同病院で臨床研修、1989年滋賀医大精神医科大学講座助手、1994年同大学で医学博士取得、1995年米・アイオワ大学精神科に留学(10カ月間)。帰国後、1997年東京大学精神神経科助手、1999年同講師、2001年理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チームリーダー、2019年理化学研究所脳神経科学研究センター副センター長を経て、2020年4月から現職。

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