双極症抑うつ患者への抗うつ薬使用の是非は?!

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研究の背景:日本の最新ガイドラインでは「行わないことを弱く推奨」

 双極症(双極性障害)患者が抗うつ薬を服用すると、躁転や急速交代化を引き起こしやすいため、原則として使用は避けるべきとされている。急速交代化とは、躁状態とうつ状態のサイクルを急速に繰り返し、病状が不安定になる状態をいう。

 それにもかかわらず、臨床場面では多く処方されている実態がある。これは、医師が患者からの「うつが苦しいのでなんとかしてほしい」との要望に応えたい一心からの行動である。こうした背景もあり、双極性障害に対する抗うつ薬使用の是非については長い間議論になってきた。

 今年(2023年)に公開された『日本うつ病学会診療ガイドライン双極症2023』では、「双極症抑うつエピソードの患者に対して、気分安定薬もしくは第二世代抗精神病薬への抗うつ薬の併用療法を行わないことを弱く推奨する(2C)」としている。しかし、推奨の根拠は「短期間の抑うつ症状の改善度は有意に大きいものの、エフェクトサイズは小さく、長期の改善度合いには差がない」というエビデンスに基づくもので、これらを踏まえた議論の結果、「併用療法を行わないことを弱く推奨する」という微妙な記載とされた。

 双極症に対する抗うつ薬の使用が長期的に悪影響を及ぼすか否かについては、メタ解析の微細な条件設定に応じて評価が揺らぐため、エビデンスが乏しいのが現状である。

 こうした中、8月3日に医学界における学術論文の最高峰であるNew England Journal of Medicine誌(2023; 389: 430-440)に、この問題を検証した研究結果が掲載された。

加藤 忠史(かとう ただふみ) 

 順天堂大学精神医学講座主任教授。1988年東京大学医学部卒業、同病院で臨床研修、1989年滋賀医大精神医科大学講座助手、1994年同大学で医学博士取得、1995年米・アイオワ大学精神科に留学(10カ月間)。帰国後、1997年東京大学精神神経科助手、1999年同講師、2001年理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チームリーダー、2019年理化学研究所脳神経科学研究センター副センター長を経て、2020年4月から現職。

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