疫学のバイブルを丁寧に翻訳した良著

『現代疫学 原著第4版』書評

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 Modern Epidemiologyは、疫学を学ぶ全ての者にとってバイブルと言える、不朽の名著である。ことに疫学研究の根本的な考え方に関する精緻な記述が白眉の出来栄えであり、入門書として初学者に役立つのみならず、その見事な筆致が上級者をも唸らせる。疫学研究が人類に果たす役割の拡大に歩調を合わせるように、Modern Epidemiologyは版を重ねてきた。新規のモデルや分析手法の解説、新興領域の紹介などを次々に取り入れ、新版が出るたびに読者は胸を躍らせてきた。

 かくも燦然と輝くModern Epidemiology、その翻訳に、わが国の気鋭の疫学者たちが果敢にも取り組んだのである。総勢44名の訳者たちによる1,300ページを超える大全に仕上がった。彼らの粒粒辛苦たるや、私の想像を絶する。この世紀の難事業を完遂した彼ら彼女らには、万雷の喝采が送られよう。

 一般的には、原著がいかに優れていようと、訳本が優れているとは限らない。原著者の意図を訳文が正しくくみ取れているかどうか、日本語として流麗かどうかが、訳本の生命線である。ことに多数の翻訳者の共同作業の場合、訳者間の筆力のばらつきは不可避であり、一冊全体を通じて格調の高い文章を貫くことはたいてい至難である。

 しかるに訳書『現代疫学 原著第4版』(学術図書出版社)は、原著に忠実、日本語として典麗、という至上命題をかなり高い次元でクリアしている。おそらくは、44名が心を1つにして丁寧な仕事に取り組み、5名の監訳者たちが呻吟して全校の推敲に推敲を重ね、章間の訳語や文体のばらつきを補正した結果、全体を通じた統一性の担保にこぎつけたのであろう。どの章も隔てなく、読みやすいし、分かりやすい。

 本書の特徴の1つが、臨床疫学、社会疫学、栄養疫学、薬剤疫学など、特定領域の疫学の記述が網羅されている点である。どの章を拾い読みしても、深い学びにつながる。私としては、第36章「分子疫学」、第37章「遺伝疫学」の翻訳が圧巻である、と感じ入った。

 英語が苦手な読者には、原著Modern Epidemiologyを読む前に、訳書『現代疫学』を読まれることをお勧めする。英語が苦手でない読者には、原著Modern Epidemiologyと併せて、訳書『現代疫学』を読まれることをお勧めする。両者を対比して読めば、より理解が深まるに違いない。

現代疫学 原著第4版』
Timothy L. Lash, Tyler J. VanderWeele, Sebastien Haneuse, Kenneth J. Rothman 編
佐藤俊太朗・藤井亮輔・芝孝一郎・後藤匡啓・今村文昭 監訳
学術図書出版社
2024年5月30日発行 
B5判上製  1332頁
定価16,500円(本体15,000円)
ISBN978-4-7806-1245-5

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