ドクターズアイ 菅野義彦(腎臓内科)

箸と塩を多用する国で食塩摂取量を減らす秘策

食塩置換食品のシステマチックレビューとメタ解析

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〔編集部から〕気鋭のドクターが独自の視点で論考を展開する人気連載「Doctor's Eye」の執筆陣に、今月から新たに東京医科大学腎臓内科学分野主任教授の菅野義彦氏が加わりました。腎臓内科領域を中心に、話題の最新論文を日常臨床の立場で徹底解説していただきます。

研究の背景:減塩または食塩の置き換えにより心血管リスクが低減

 今回取り上げる論文の筆頭著者であるHannah Greenwood氏は、BPsychSc (Hons)という聞きなれない称号を持つ。調べてみると英語圏、特にオーストラリアや英国で授与されるBachelor of Psychological Science with Honoursという学位なのだそうだ。心理科学に対する優等学位で、修士号の一段階前に位置付けられているが、学部での成績優秀に加え、短期間で独自の研究プロジェクトを完成する研究者としての実力が要求される。

 修士の一段階前の学生の研究結果がAnnals of Internal Medicineに掲載されるとなれば、その称号を得る難易度が推し量れるであろうか。

 オーストラリアは陽光きらめくゴールドコーストでGreenwoodらが行った研究は、食事指導での減塩ではなくナトリウム(Na)をカリウム(K)に置き換えた調味料を用いることで、心血管(CV)イベントにどのような影響を及ぼすかというテーマに対するシステマチックレビューとメタ解析である(Ann Intern Med 2024; 177: 643-655)。

 実はGreenwoodは、もう1つ並行してシステマチックレビューとメタ解析を行っている。そちらはCVイベントの一次予防に対して有効な食事療法を探るというもので、エネルギー制限、地中海食に加えて減塩または食塩の置き換えがCVリスクを減らす可能性があるとしている(Br J Gen Pract 2024; 74: e199-e207)。

 恐らくそこからGreenwoodが注目した食塩置換食品は、わが国でも塩化K(KCl)を中心に代替塩として発売され、日本高血圧学会のガイドラインでも高K血症のリスクがない場合に推奨されている(日本高血圧学会高血圧管理・治療ガイドライン委員会編. 『高血圧管理・治療ガイドライン2025』ライフサイエンス出版, 2025)。代替塩は野菜・果物を食べることなく、副次的にNa排泄を促すカリウムの摂取量を増やすことができるため、理論的にも減塩の有効な手段とされている。また、日本における食塩の平均摂取量は男性で10.7g/日、女性では9.1g/日と高いことが2023年度国民健康・栄養調査で示され、日本高血圧学会は高血圧の予防対策として減塩を推進している。

 こうした点を踏まえると、昨年(2024年)の報告ではあるがGreenwoodらの報告は重要な研究テーマであるため、ここで取り上げることにした。

菅野 義彦(かんの よしひこ)

東京医科大学腎臓内科学分野主任教授

1991年慶應義塾大学医学部卒業。同大学院進学後、米国ジョージワシントン大学、国立衛生研究所に留学。埼玉医科大学腎臓内科、医学教育センター、慶應義塾大学医学部血液浄化・透析センターを経て2013年より現職。2018年より大学病院副院長(医療安全・危機管理)、2024年より大学副学長補佐を務める傍ら2021年システムデザインマネジメント学修士、2025年教育学修士を取得。腎臓・高血圧・透析領域のみならず感染症、老年医学、医学教育などの専門資格を有する。また臨床栄養学に関するオピニオンリーダーの1人でもあり、日本臨床栄養学会、日本病態栄養学会の理事を務める。

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