ドクターズアイ 岩井拓磨(消化器外科)

単剤か併用か――「腫瘍の相」が治療反応を決める

MSI-H大腸がん薬物療法の新時代

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〔編集部から〕気鋭のドクターが独自の視点で論考を展開する人気連載「Doctor's Eye」の執筆陣に、今月から新たに日本医科大学消化器外科病院講師の岩井拓磨氏が加わりました。消化器がん領域を中心に、話題の最新論文を日常臨床の立場で徹底解説していただきます。

研究の背景:MSI-H大腸がん治療を一変させた免疫チェックポイント阻害薬

 免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)は、この10年で高頻度マイクロサテライト不安定性/ミスマッチ修復機能欠損(MSI-H/dMMR)大腸がんの治療体系を大きく変えた。特にペムブロリズマブは、KEYNOTE-177試験において、一次治療での化学療法に対し無増悪生存(PFS)を大幅に延長し(中央値16.5 vs. 8.2カ月)、MSI-H大腸がんにおける標準治療として定着した(N Engl J Med 2020; 383: 2207-2218)。また、治療抵抗性症例を対象としたKEYNOTE-164試験でも持続的な奏効が示され、MSI-H大腸がんは「ICIsで長期に制御しうる」という臨床的実感が広く共有された。

 一方、ニボルマブ+イピリムマブ(Nivo+Ipi)併用療法はCheckMate-142試験で高い奏効率(ORR)・長期生存を示し、ペムブロリズマブ単剤以上の効果が期待できるレジメンとして注目されている(J Clin Oncol 2022; 40: 161-170)。しかし、一次治療におけるNivo単剤とNivo+Ipi併用を直接比較した国際第Ⅲ相ランダム化比較試験CheckMate-8HWでは、Grade 3/4の治療関連有害事象は、Nivo単剤群が14%に対し、Nivo+Ipi併用群では22%と多い傾向である(Lancet 2025; 405: 383-395)。

 これらを精査すると、「全ての症例で併用療法を使うべきなのか?(どのような症例なら単剤で十分か?)」という臨床的な疑問が残る。この問いに対し、分子基盤から新たな視点・示唆を与えたのが、今回取り上げる論文である(Nat Commun 2025; 16: 8868)。

岩井 拓磨(いわい たくま)

日本医科大学 消化器外科 病院講師

2007年日本医科大学 医学部卒業。同大学 消化器外科に入局し、助教、関連病院勤務を経て、同大学院 外科学講座にて博士号を取得(2018年Ph.D.)。大学院在学中には、Liquid Biopsyを用いた腫瘍評価法(第7215675号)や、血中DNA分解酵素活性を利用した絞扼性腸閉塞診断法(第6844833号)を開発し、特許取得するなど、臨床現場の課題解決に早くから注力。現在は大腸癌の手術・薬物療法を軸とした集学的治療のエキスパートとして臨床に当たる傍ら、個別化治療の最適化を目指したトランスレーショナルリサーチにも取り組む。

主な所属:日本内視鏡外科学会(評議員・技術認定医)、日本大腸肛門病学会(評議員・専門医)、日本外科学会(専門医・指導医)、日本消化器外科学会(専門医・指導医)、日本消化器病学会(関東支部評議員・専門医・指導医)、ESMO memberほか。

岩井 拓磨
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