〔編集部から〕気鋭のドクターが独自の視点で論考を展開する人気連載「Doctor's Eye」。今月から福島県立医科大学放射線健康管理学講座/主任教授の坪倉正治氏の監修の下、同講座の先生方に担当制で執筆していただくことになりました。公衆衛生・災害医療領域を中心に、話題の最新論文を日常臨床の立場で徹底解説していただきます。 先生方は、ご自身の病院が大規模災害に見舞われた際、患者をどう守るか具体的に想像されたことはあるだろうか? 近年、地震、豪雨、感染症流行など、医療機関は多様な災害に直面しうる状況だ。入院患者や介護施設の利用者は、自ら安全な場所へ移動することが難しく、病院という場への依存度も高い。そのため、災害時に病院が「動く(避難:Shelter in place)」ことは患者に多大な負担となりうる一方、病院機能が維持できなくなれば「動かない(屋内退避:Evacuation)」こともまた危険となる。 災害時の対応は、大きく「屋内退避(Evacuation)」と「避難(Shelter in place)」に分けられる。 屋内退避: 病院内で診療と生活環境を維持しながら、外部状況が改善するのを待つ対応。 避難: 現在の場所でケアの継続が困難になった時に、ケアを維持できる別の場所へ移動する対応。 これらは対立する選択ではなく、状況に応じて移行点を探る連続した対応である。 本稿では、東日本大震災時に異なる状況下でこの判断に直面した医療機関を記録した2つの論文(J Radiat Res. 2024;65(Supplement_1):i67-i79、J Radiat Res. 2021;62(Supplement_1):i122-i128)を取り上げる。これらは原子力災害下での記録だが、病院機能を支える物資・人員・インフラが災害時にどう変化し、どこで限界が訪れるか、一般災害にも通じる教訓として考察する。