吸入薬の「温室効果ガス問題」再浮上

米国では吸入薬による年間CO2排出量230万t!

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研究の背景:吸入薬は温室効果ガスを利用する

 喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療において吸入薬は中心的な役割を担っており、世界中で数億人の患者が日常的に使用している。吸入デバイスは主に以下の3種類が存在する。

・加圧式定量噴霧吸入器(pressurized metered-dose inhaler: pMDI)

・ドライパウダー吸入器(dry powder inhaler: DPI)

・ソフトミスト吸入器(soft mist inhaler: SMI)

 吸入薬は、環境にとっては決して良くない。例えば、pMDIは薬剤を肺に送達するために、ヒドロフルオロアルカン(hydrofluoroalkane; HFA)推進剤を使用している。HFAは強力な温室効果ガスであり、二酸化炭素の1,430~3,220倍の地球温暖化係数を持つ。

 歴史的経緯として、pMDIはかつてクロロフルオロカーボン(CFC)を推進剤として使用していた。CFCはオゾン層破壊物質であり、モントリオール議定書に基づき米国では2009~13年に段階的に廃止された。日本でもCFCを使った吸入薬が2010年までに全廃されている。

 後継としてHFAが導入されたが、HFA自体も強力な温室効果ガスであることが問題視されるようになった。オゾン層破壊係数が低いことから「代替フロン」という名前が付いているが、代替フロンも温室効果ガスであることには相違ない。

 本研究は2014~24年の11年間にわたる連続横断研究である。Symphony Health Metysデータベースを用いて、喘息またはCOPDに承認された全ての吸入薬の米国外来市場における処方データを収集した(JAMA 2025; 334: 1638-1649)。

倉原 優 (くらはら ゆう)

国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科医師。2006年、滋賀医科大学卒業。洛和会音羽病院での初期研修を修了後、2008年から現職。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本感染症学会感染症専門医、インフェクションコントロールドクター、音楽療法士。自身のブログで論文の和訳やエッセイを執筆(ブログ「呼吸器内科医」)。著書に『呼吸器の薬の考え方、使い方』、『COPDの教科書』、『気管支喘息バイブル』、『ねころんで読める呼吸』シリーズ、『本当にあった医学論文』シリーズ、『ポケット呼吸器診療』(毎年改訂)など。

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