〔編集部から〕 日本医療安全学会との共同で2023年にスタートした連載シリーズ「医療法学で考える臨床の未来」。今年(2025年)は時事的な話題にフォーカスし、同学会理事長で浜松医科大学教授の大磯義一郎氏に医療法学の観点から毎月3本の医療ニュースを読み解いてもらい、「MT医療ウェビナー」として動画を配信した。今回、今年取り上げたニュースの中から、視聴者の関心を集めた話題を振り返ってもらった。(聞き手:編集部・平山茂樹、2025年11月14日収録) 乳腺外科医冤罪事件:背景に司法の科学リテラシー欠如 編集部 2025年は1~10月に毎月3本、計30本のニュースを取り上げました(表)。その中で最も反響が大きかったのが、準強制わいせつ罪に問われた乳腺外科医への無罪判決でした。視聴者からは、安堵の声とともに「いつ自分に起こるか分からない」といった感想も寄せられました。 表. 2025年に取り上げたニュース 大磯 この事件で何より問題なのは、無罪確定までに9年を要したことです。背景には、科捜研のDNA鑑定で「陽性」と出ると、それを絶対視してしまう検察と裁判所の科学リテラシーの低さがあります。 本来、科学とは暫定的かつ不確実な仮説の体系であり、技術や知見の進歩により結論が変わりうるものです。しかし、科学的知見に疎い検察官や裁判官はその前提を十分に理解していないようにみえました。 一方、9月のニュースとして取り上げた佐賀県警におけるDNA鑑定不正問題などを通じて、科捜研の鑑定体制の問題点が明らかとなったことは、今後同種の冤罪を防ぐ上で一歩前進ともいえます。ただし、冤罪に巻き込まれた医師ご本人とご家族が被った損害は到底取り返しがつきません。検察と裁判所には真摯な検証と反省が求められます。 医療費問題:2,900万円を社会でどのように支えるか