ドクターズアイ 小島淳(循環器)

心筋梗塞後のβ遮断薬は本当に必要なのか?

最新論文で示されたエビデンス

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研究の背景:現代の再灌流療法下でのβ遮断薬の意義

 β遮断薬は、1970~80年代に実施された前向き臨床試験により、心筋梗塞(myocardial infarction;MI)後の死亡率を低下させることが示され、長らく標準的再発(二次)予防治療として位置付けられてきた。しかし当時は血栓溶解療法が主流で、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は普及しておらず、スタチン、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)阻害薬といった、現在行われている薬物治療も確立されていなかった。

 一方、現在のMI診療は、冠動脈造影とPCIによる再灌流療法、およびエビデンスに基づいた二次予防のための薬物治療により大きく様変わりした。その結果、左室駆出率(left ventricular ejection fraction;LVEF)が保たれた患者において、β遮断薬の投与による予後改善効果はかえって不明瞭となっている。

 このような背景の下、2025年にN Engl J Medから、MI後でLVEFが保たれた患者を対象とする3件の大規模ランダム化比較試験(RCT)/個別患者データメタ解析が相次いで報告され(2025; 393: 1901-19112025; 393: 1889-19002025年11月9日オンライン版)、「LVEFが保たれたMI後患者にβ遮断薬は本当に必要なのか」という長年の問いに対し、最新のエビデンスが提示された。

小島 淳(こじま すなお)

桜十字八代リハビリテーション病院副院長、熊本大学客員教授

1993年熊本大学医学部卒業後、循環器内科に入局し、国立循環器病研究センターで臨床・研究に従事。熊本大学病院勤務を経て2006年に医学博士を取得。2018年川崎医科大学総合内科学主任教授、2020年熊本大学客員教授、2021年より桜十字八代リハビリテーション病院副院長を務める。日本内科学会、日本循環器学会、日本心臓病学会、日本超音波医学会、日本脈管学会、日本救急医学会、日本心臓リハビリテーション学会、日本痛風・核酸代謝学会など多数の専門医資格を有し、学術賞受賞や各種ガイドライン策定にも参画。「くまもとハートの会」代表理事として地域医療にも尽力する。研究は循環器内科学を基盤に、大気汚染と循環器疾患、尿酸代謝と心血管イベントの関連を中心とした大規模臨床研究・疫学解析を推進し、「医学と環境」を軸に国際的に成果を発信している。

小島 淳
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