研究の背景:現代の再灌流療法下でのβ遮断薬の意義 β遮断薬は、1970~80年代に実施された前向き臨床試験により、心筋梗塞(myocardial infarction;MI)後の死亡率を低下させることが示され、長らく標準的再発(二次)予防治療として位置付けられてきた。しかし当時は血栓溶解療法が主流で、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は普及しておらず、スタチン、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)阻害薬といった、現在行われている薬物治療も確立されていなかった。 一方、現在のMI診療は、冠動脈造影とPCIによる再灌流療法、およびエビデンスに基づいた二次予防のための薬物治療により大きく様変わりした。その結果、左室駆出率(left ventricular ejection fraction;LVEF)が保たれた患者において、β遮断薬の投与による予後改善効果はかえって不明瞭となっている。 このような背景の下、2025年にN Engl J Medから、MI後でLVEFが保たれた患者を対象とする3件の大規模ランダム化比較試験(RCT)/個別患者データメタ解析が相次いで報告され(2025; 393: 1901-1911、2025; 393: 1889-1900、2025年11月9日オンライン版)、「LVEFが保たれたMI後患者にβ遮断薬は本当に必要なのか」という長年の問いに対し、最新のエビデンスが提示された。