私の一押し記事

いまだ混迷続く米国の医療政策

来年1月にはWHO脱退

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ
編集部・関根雄人の一押し記事
『アメリカ・ファースト』は健康損なう世紀の愚策!
2025年5月9日掲載
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背景には大学に対する政府契約・助成金の打ち切りが

 今年(2025年)1月に発足した第二次トランプ政権は「Putting America First(米国第一主義)」「Make America Great Again(MAGA、米国を再び偉大な国にする)」の理念を掲げ、世界保健機関(WHO)やパリ協定からの離脱、米食品医薬品局(FDA)、米疾病対策センター(CDC)の人員削減といった、極端な政策を次々に推進した。

 アカデミアに対しても、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ攻撃への学生の抗議活動を「反ユダヤ主義」とし、複数の大学に学生運動の取り締まり強化やDEI(多様性・公平性・包括性)施策の見直しを要求。米・ハーバード大学学長のAlan M. Garber氏が「本学は独立性あるいは憲法上の権利を放棄しない」と拒絶すると、政府契約や助成金を取り消す措置を講じて対抗、これに反発した同大学とは訴訟にまで発展した。

 記事では、同大学教授のChristopher P. Duggan氏らが、これまで米国が世界の公衆衛生に果たしてきた功績を挙げつつ、「トランプ大統領の施策が実行されれば、数百万人を貧困に追いやり、米国の健康と経済を弱体化させる。連邦政府の愚策に抵抗し、エビデンスに基づく行動を支持するために断固として立ち向かわなければならない」と批判。

 その後、9月に連邦地裁が政府による助成金停止を違法とする判決を下したことを受け、一時は和解に向けた協議が進んだ。しかし、大学自治に関わる内容などで交渉が難航、合意形成には至っていない。

ACIP委員に反ワクチン派指名など医療政策を私物化

 トランプ政権による医療政策の私物化に関しては、①ロバート F. ケネディJr. 保健福祉省(HHS)長官が6月にCDC予防接種諮問委員会 (ACIP)の全委員を解任し、新任委員として反ワクチン派の人物を指名、 ②ワクチン健康被害補償プログラム (VICP)のアドバイザーとして、ワクチン被害訴訟を専門とする弁護士を起用、③トランプ大統領が妊婦へのアセトアミノフェン投与により子供の自閉症が増大するとし、医師に投与を控えるよう強く勧告、④医療保険制度(オバマケア)への保険料補助金延長をめぐって民主党と対立し、10月1日から11月12日まで過去最長となる43日間政府機関の一部を閉鎖-など、枚挙にいとまがない(関連記事「トランプ政権で揺らぐ『ワクチン政策の手本』」「妊婦のアセトアミノフェンで自閉症に根拠なし」)。

 来年の1月22日にはWHO脱退が控えており、批判をかわす狙いで新たな政策を打ち出す可能性がある。今年行われたHHSの人員削減および再編、米国際開発庁(USAID)の解体、大統領エイズ救済緊急計画 (PEPFAR)の予算削減などの施策については、世界的な公衆衛生に深刻な悪影響が及ぶことなどが想定される。来年も引き続き、動向を注視していきたい。

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