【私が選んだ医学2025年の3大ニュース】 予防医療の柱として、とりわけ重要なワクチン領域では、新規の成人・高齢者用ワクチンが続々と登場し、ラインアップが一段と充実した。さらに、ワクチンが本来の目標とは異なる疾患・病態に対する有効性を示す"オフターゲット効果"についての報告が相次ぎ、一般社会にも広く知られ始めた。本稿では、オフターゲット効果を含めて、2025年の医療界を席巻したワクチンをめぐる注目のニュースを取り上げ、概観したい。 1. 帯状疱疹ワクチンに認知症抑制効果あり?! 2025年4月に帯状疱疹ワクチンが予防接種法上のB類疾病用ワクチンに組み込まれ、日本でも定期接種が開始された。定期接種化を機に接種希望者が増加したということもあるが、筆者の外来で特に聞かれるようになったのが「このワクチンは認知症予防にもなるようなので...」といった声である。定期接種化と同じ時期に、Nature誌上で帯状疱疹ワクチン「ZOSTAVAX」接種者では認知症の発症リスクが有意に低いという自然実験的な観察研究の結果が発表され1)、一般メディアがそれを大きく報じたためであろう。 その研究では、英国・ウエールズで2013年に始まった同ワクチンの接種プログラムにおいて、80歳以上が対象外となった制度上の境界を利用し、プログラム開始以降の80歳未満と80歳以上で認知症の発症率を比較し、前者で認知症の発症率が有意に低かったと報告している1)。 2025年には、帯状疱疹ウイルスと同じヘルペス属である単純疱疹ウイルスに関し、ウイルス感染歴と抗ウイルス薬非投与がアルツハイマー病(最も頻度の高い認知症)の発症リスクを有意に上昇させるという結果もBMJ Open誌に報告された2)。これらの報告を踏まえると、神経向性が強いヘルペス属ウイルスの感染は、認知症の発症に関連している可能性が高い。 なお、帯状疱疹ワクチンについては、2024年および2025年にZOSTAVAXよりシングリックスで認知症発症抑制の効果が強いという報告がNature Medicine誌に掲載された3, 4)。後者は1億人以上の医療データを解析対象とした大規模観察研究であり、結果の頑健性や信頼性という点で注目される4)。さらに、認知症発症抑制の効果は帯状疱疹ワクチンに限らず、他の複数のワクチンでも同様の現象が認められたという報告が増えつつあり、さらなる研究の進展に期待が高まる。