私の一押し記事

「難病治験ウェブ」で解消を

日本人に広まらない治験の認識

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする
感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ
編集部・田上玲子の一押し記事
ドラッグ・ロス軽減に向け「難病治験ウェブ」が始動
2025年9月2日掲載
20251218_Tagami_face02.png

「治験薬の情報収集が困難」と患者

 2011年に『困ってるひと』(大野更紗著、ポプラ社)が刊行された。一体何に困っているのか、困っている人とは誰なのか。一風変わったタイトルの同書は、ベストセラーになり、大きな話題を呼んだ。

 困っている人とは突然、難病を発症した大学院生の大野氏自身のことだ。当時、同氏はビルマ(現ミャンマー)難民を研究していたが、難病の診断がなかなか付かず、自身が医療機関を渡り歩く難民と化してしまう。

 難病は症状が多様で希少性が高く、認知度が低いなどの理由から、確定診断までの期間は平均3~4年ともいわれる。また、希少疾患故に患者数が少ない薬剤の開発は困難を極める。各製薬企業は難病の薬剤開発に尽力しているが、ようやく第Ⅲ相臨床試験に着手できても、肝心の患者が集まらなければ実用化が遠のいてしまう。

 治験の開始は、特に対症療法しかない難病患者にとって吉報といえよう。しかし、難病/希少疾病患者を対象にしたインターネット調査(有効回答438人、2022年に日本製薬工業協会が実施)では、収集が困難だった情報として「新薬・治験薬」(37.5%)が3番目に多く、情報の壁が立ちはだかっている。

 記事で取り上げた「難病治験ウェブ」は、そのような課題を抱える難病の治験情報を検索できるサイトだ。「難病治験ウェブ」の作成に際し、中心的役割を担った安井秀樹氏は、専門性が高いJapan Registry of Clinical Trials(jRCT)とは趣が異なり、難病当事者や家族、医師が国内で実施中または実施予定の治験情報にアクセスできるように、サイト内の検索機能や平易な文章づくりに注力したと説明する。

ドラッグ・ロスの問題を緩和

 治験情報を積極的に求める患者がいる一方で、治験イコール人体実験という誤ったイメージがいまだに払拭されない人もいる。また治験という用語は知っていても、厳格なルールの下で実施されることを理解している人は多くない。

 治療中の難病患者をリクルートしたところで、必ずしも協力してくれるとは限らず、患者登録が進まなければ、日本に国際共同治験への参加の声がかかりにくくなる。そうなるとドラッグ・ロスの問題がより深刻化する可能性がある。

 治験は薬剤を実用化するための極めて重要な過程である。患者も現行の対症療法ではない、根治に近いまたはリスクが少ない治療法を待ち望んでいるだろう。

 「難病治験ウェブ」にアクセスすることで、誰もが平等に適切かつ分かりやすい治験情報を得られる。それによって日本で治験がさらに活性化すれば、ドラッグ・ロス問題の緩和が期待される。

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする