ドクターズアイ 柳靖雄(眼科)

糖尿病黄斑虚血の新規治療薬開発へ確かな一歩

Sema3A阻害薬のヒト初回投与試験

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:抗VEGF療法の登場で浮き彫りとなったアンメットニーズ

 糖尿病網膜症(DR)は、就労可能年齢層における予防可能な視力喪失の主たる原因であり、その病態解明と治療法の開発は眼科領域における重要なテーマである。近年、抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法の登場により、糖尿病黄斑浮腫(DME)の治療は劇的に進歩した。しかし、進歩は同時に、それまで有効な治療法が存在しなかった「糖尿病黄斑虚血(Diabetic Macular Ischemia;DMI)」という新たな臨床課題を浮き彫りにした

 DMIは、DRの根幹を成す網膜非灌流(Retinal Nonperfusion;RNP)が黄斑部に及んだ重篤な病態である。黄斑部の毛細血管が進行性に閉塞・消失することにより、神経細胞への酸素や栄養の供給が途絶え、最終的には神経細胞死を招き、不可逆的な視力喪失に至る。現在、DMIの進行を抑制、あるいは虚血状態を改善する効果が確立された治療法は存在せず、アンメットニーズが極めて高い疾患領域となっている。

 このような状況下で、新たな治療標的としてSemaphorin 3A(Sema3A)が注目されている。Sema3Aは虚血状態の網膜で産生され、血管再生を妨げる蛋白質である。Sema3Aを阻害することで、網膜の虚血状態を改善できるのではないかという仮説に基づき、新規薬剤「BI 764524」(開発コード)が開発されている。今回は、この薬剤の安全性と初期の薬力学的作用を評価した初の臨床試験HORNBILL(Ophthalmol Sci 2025; 5: 100781)について考察したい。

柳 靖雄(やなぎ やすお)

医療法人社団祥正会お花茶屋眼科手術外来院長、横浜市立大学視覚再生外科学客員教授、デューク・シンガポール国立大学医学部Adjunct Professor

東京大学医学部を卒業(1995年、MD)し、同大学大学院で医学博士号を取得(2001年、PhD)。基礎医学に強固な学術的バックグラウンドを持ち、200本以上の科学論文を執筆、国内外で10以上の賞を受賞。東京大学医学部眼科学教室講師(2012~15年)、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授(2016~20年)、旭川医科大学眼科学教室教授(2018~20年)を歴任し、現在は横浜市立大学視覚再生外科学客員教授(2020年~)およびデューク・シンガポール国立大学医学部Adjunct Professor(2020年~)として国際共同研究に積極的に関与している。専門は黄斑疾患で、新規治療薬に関する特許を多数出願。スタンフォード大学とエルゼビア社が2024年に発表した「世界のトップ2%の科学者リスト」に選出された。DeepEyeVisionの取締役としてAI技術の開発に携わり、国際誌「TVST」や「Scientific Reports」の編集者としても日本のプレゼンス向上に貢献。都内のクリニックでは質の高い診療を提供し、地域医療にも尽力。現在、医療経済研究、創薬、国際共同臨床研究など多岐にわたる分野で積極的に活動している。

柳 靖雄
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