研究の背景:IgA腎症は治療戦略を考えられる疾患になるのか? 前回紹介した通り、毎年10月に開催される米国腎臓学会と同時期にNew England Journal of Medicine誌に掲載されるのが腎臓領域の最新トピックで、昨年はIgA腎症だった。医師に治せる疾患があるかどうかは別として、腎臓内科専門医の間では、長らくIgA腎症は「治らない疾患」であると自他ともに認められてきた。 腎臓内科領域は、専門医試験も問題作成に苦労するほど薬物療法が乏しい領域で、抗がん剤を用いる悪性腫瘍は泌尿器科の担当になるため、研究者として高血圧や糖尿病に関与しない限り、製薬会社とのお付き合いも少なかった。しかし、特に王道である免疫学をバックグラウンドにした領域に大きな機会が到来している。 1968年にBerger(フランス人医師の報告なのでベルジェと読む)病として初めて報告されたIgA腎症は、慢性糸球体腎炎の代表的な原因疾患で、小児の検尿をはじめ健康診断システムが普及した日本は、諸外国に比べてChance hematuria proteinuria(血尿・蛋白尿で偶然に発見される例)に対し腎生検を高頻度に行ってきた。その結果、日本は世界有数のIgA腎症有病率が高い国となった。 IgA腎症の診断基準では、「糸球体にIgAが沈着する」としていることから、IgA腎症は単一疾患でない可能性を含めて、遺伝や食習慣など多くの原因検索がなされてきた。筆者のような大穴狙い(Clin Nephrol 1997 ; 47: 211-216)は影を潜める一方で、IgA腎症の病態解明に近づきつつあるのは、やはり本命の免疫学的アプローチを長年追求してきた研究者たちである。その成果として、がんや膠原病の領域では、これまでの実績を引っ提げて、新世代の免疫抑制薬がマッチされつつある。 日本でも複数のIgA腎症治療薬の治験が進行中であり、筆者は今後しばらく、これらの治験成績の発表を楽しみに、国内外の学会に参加することになるだろう。 今回紹介するのは、後述するIgA腎症の病態形成に関与するB細胞活性化因子(BAFF)および増殖誘導リガンド(APRIL)を標的とした二重阻害薬ヒトTACI-Fc融合蛋白質ataciceptにおける第Ⅲ相試験の中間解析結果である。 Lafayette R, et al. A Phase 3 Trial of Atacicept in Patients with IgA Nephropathy. New Engl J Med 2025年11月6日オンライン版