薬剤師のための皮膚科処方箋/ステロイドと角質軟化剤の重層塗布

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究所所長(監修)だんの皮フ科クリニック 段野 貴一郎

処方箋からわかることは...?

疾患

  • 過角化と痒い湿疹病変がある手の病変(手湿疹、汗疱)

処方意図

  • 過角化はサリチル酸ワセリンで治し、痒い湿疹はステロイドによって治したい
  • 混合処方は好ましくない(不必要なところにもステロイドを塗ってしまうから)
  • 重層塗布法が目的にかなっている

過角化と湿疹を伴う汗疱。汗疱とは狭義の発汗異常症のこと

5%サリチル酸ワセリン軟膏 東豊とネリゾナ® 軟膏0.1%の要点

薬剤:5%サリチル酸ワセリン軟膏 東豊

  • 一般名:サリチル酸/白色ワセリン
  • 角質軟化剤
  • 保湿効果を併せ持つ
  • [同等品]ケラチナミンコーワ軟膏(成分:尿素)

薬剤:ネリゾナ® 軟膏0.1%

  • 一般名:ジフルコルトロン吉草酸エステル
  • very strongランクのステロイド外用剤
  • [同ランク品]マイザー®、リンデロン®-DP、アンテベート®など

用法

  • 1日1回の指示
  • 手への油性軟膏の塗布は、ベタつきが気にならない就寝前がベスト

その他のポイント

  • 重層塗布が指示されている
  • ステロイドは、痒いところへ重ね塗る
  • サリチル酸ワセリンは、手全体に塗る

患者さんにこうやって伝えよう!

  • ステロイドと角質を柔らかくする作用を持つ保湿剤が処方されています
  • まず、手全体にサリチル酸ワセリンをたっぷり塗り込んでください
  • つぎに、痒いところ(湿疹部)にネリゾナ軟膏を薄く塗ってください
  • 塗るタイミングは、就寝前がベストです

Dr.Dannoのコレは覚えておきたい!

皮膚の構造・角質の異常

表皮は4層からなる組織です

  • 表皮は基底層、有棘(ゆうきょく)層、顆粒層、角層(角質層)の4層からなります
  • 表皮の新陳代謝は、角化細胞(ケラチノサイト)が基底層で分裂したのち、有棘細胞から角層細胞へ分化して、さいごに角層細胞が"あか"として剥離します
  • この新陳代謝(ターンオーバー)の過程を「角化」といいます

角層の重要な機能は保湿です

  • 角層は表皮の一番外の層であり、その主な働きは生体防御(バリア機能)と保湿です
  • 遺伝異常や炎症などによって角化に異常が起こると(過角化など)、角層の保湿機能が失われ、皮膚が乾燥します

重層塗布法は、いろいろな状況に応用できます。

  1. ステロイド+保湿剤............... 湿疹病変と乾燥皮膚が混ざっている場合
  2. ステロイド+角質軟化剤......... 湿疹病変と過角化病変が混ざっている場合
  3. ステロイド+亜鉛華軟膏......... 滲出液を伴う高度の急性病変(接触皮膚炎、貨幣状湿疹、虫刺症など)
  4. ステロイド+アズノール®軟膏... 発赤・腫脹を伴う高度の急性病変(接触皮膚炎、虫刺症、日焼け、紅斑、第Ⅰ度熱傷の早期など)

手荒れ・手湿疹に対するハンドケア

毎日、根気よくケアすることが必要です

油脂性保湿剤が第一選択です

  • 就寝前にたっぷり塗り込んでください
  • 保護作用があって手を守ってくれます
  • 食品・幼児などに触れても問題ありません

日中のハンドケアもかかせません

  • クリーム系の保湿剤が好まれます(ヒルドイドソフト® 軟膏、ウレパール®クリームなど)
  • さらっとして使いやすいからです
  • ただし、水で洗うと落ちるので、保護効果は長持ちしません

湿疹病変があって痒いときは、ステロイド軟膏を併用します

  • 保湿剤を塗ったうえに、痒いところへ重ね塗るようにします
  • ステロイド軟膏は亀裂にも効果的です
  • 湿疹もなく痒みもないのに、ステロイドを塗り続けると、手荒れ・乾燥を悪化させるので要注意です

前回の「ステロイドと保湿剤の重層塗布」はこちら

次回の「人体の各部位の名称をおさらいしよう!」はこちら

[PharmaTribune 2012年10月号掲載]

監修者 ● 段野貴一郎 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医
皮膚科からの患者さんに「このステロイドって強いの?体に悪くない?」と突然相談されて、答えに困ってしまったことはありませんか?ステロイド外用剤による治療は、薬の適切な使用がなにより大切。患者さんに尋ねられた時の薬剤師の対応が、その後の服薬コンプライアンスを左右するといっても過言ではありません。「皮膚科処方箋研究所」では、皮膚科処方箋の読み解き方と外用剤の服薬指導を経験豊富な皮膚科専門医がお教えします。
【略歴】
1975 年 京都大学医学部卒業
1977 年 カリフォルニア大学留学
1984 年 京都大学医学部皮膚科講師
1987 年 天理よろづ相談所病院皮膚科部長
1992 年 滋賀医科大学皮膚科准教授
2008 年 滋賀県栗東市にてだんの皮フ科クリニック」開院

皮膚科の薬剤をもっと学びたい人に・・・

ここがツボ!患者に伝える皮膚外用剤の使い方 改訂2版
著 段野貴一郎(だんの皮フ科クリニック)
B5判・148頁 定価(本体3,400円+税) ISBN978-4-7653-1569-2
http://www.kinpodo-pub.co.jp/shosai/e1811-1569-2.html

保湿剤、ステロイド、免疫抑制外用剤・・・さまざまな処方箋を例に、段野医師が処方意図の読み方と服薬指導のコツを解説します。処方鑑査のポイントや外用剤の製剤特性など、薬剤師であれば知っておきたい外用剤の基礎知識を、わかりやすく紹介。読んだ次の日から実践できる、即戦力の一冊です。

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