さまざまな漢方薬処方に含まれる生薬、甘草。じつは、漢方薬の副作用で最も多いのが、この甘草が引き起こす「偽アルドステロン症」であるとされています。偽アルドステロン症とはどのような副作用なのか。副作用のリスクを回避し、患者さんに安全に漢方薬を服薬してもらうために、薬剤師はどのような点に気をつければよいのか。漢方指導医の南澤潔先生に解説していただきました。 亀田総合病院 東洋医学診療科南澤 潔 氏 目次 漢方薬に副作用がないというのは迷信 甘草の副作用「偽アルドステロン症」 甘草の一日摂取量に注意 漢方薬に副作用がないというのは迷信 一般の方々には、「もとは天然のものだから副作用が少ない」、または「ない」と信じられていたりする漢方薬ですが、天然由来の食べ物でもアレルギーで命を落とす人がいるように、漢方薬に副作用がないなどというのは迷信です。 アレルギー性の機序が疑われる重篤なものから、使用量依存的に多くの人に起こりうるものまで、漢方薬にも注意すべき副作用がいくつもあります。残念ながら、医師の間でもこのことが十分に知られていない場合もありますので、薬剤師には薬のプロとして、そのあたりを強力に補完していただくことをぜひお願いしたいところです。 甘草の副作用「偽アルドステロン症」 数ある漢方薬の副作用の中で最も多いのが、甘草による「偽アルドステロン症」です。主な症状は血圧上昇や浮腫ですが、ひどくなると全身の脱力や不整脈誘発の危険にまで至り、重症例では横紋筋融解症を発症することもあるので十分な注意が必要です。 偽アルドステロン症が発症する機序は、甘草の主要な薬効成分であり、甘味料として食品にも使われるグリチルリチンの代謝物が、腎臓でのステロイドの代謝酵素を阻害するためと考えられています。腎臓でミネラルコルチコイド作用が亢進してナトリウムの再吸収と尿中へのカリウムの過剰な排泄を促し、血清カリウム値の低下が起こります。その結果、上に挙げたような症状が現れます。 さまざまな処方に含まれる甘草、1日摂取量に注意 多彩な生薬で構成される漢方処方。甘草は保険収載されているエキス剤148 種類の8 割近くの方剤(109種類)に含まれています。そのため、症状や病名に合わせていろいろな漢方を複数の科や病院から処方されるような患者さんでは、知らず知らずのうちに甘草の1日摂取量が過剰になっていることがあります。 漢方薬の代謝に深く関わる腸内細菌や代謝酵素の個人差によるのか、甘草は人により著しく耐用量が異なります。昨年廃止されるまで、厚労省の通知では、甘草の1日最大配合量は5g(グリチルリチンとして200mg)という制限がありました※。臨床的にも4gを超えるあたりから浮腫などが現れる人が増える印象がある一方、1g程度の量でも重症になる人がいるので注意が必要です。体がむくんでいる感じがする、理由もなく体重が増えてきた、血圧が高くなってきた、筋肉に力が入りにくい、尿が褐色になった、などの症状を聞き出すことが発見につながります。 甘草と利尿薬やステロイド薬との併用は、副作用の発症リスクを増加させます。薬剤師には、患者さんの症状や併用薬のチェックに加えて、OTCも含め、複数の漢方薬を飲んでいないかを確認して、甘草の1日総摂取量を把握していただくとよいと思います。 なお、非常に甘いので心配される方がいるのですが、甘草で血糖が上がったり糖尿病が悪化することはありません。 ※ 薬発第一五八号 「グリチルリチン酸等を含有する医薬品の取扱いについて」1978年http://www.japal.org/wp-content/uploads/mt/19780213_158.pdf ◆執筆者◆ 南澤 潔 氏 医学博士日本東洋医学会 漢方専門医・指導医日本内科学会 総合内科専門医・指導医日本救急医学会 救急科専門医 【ご略歴】1991年 東北大学医学部 卒業1991年 武蔵野赤十字病院 研修医1993年 富山医科薬科大学(現 富山大学)和漢診療科1995年 諏訪中央病院 内科1996年 成田赤十字病院 内科1999年 麻生飯塚病院 漢方診療科2001年 富山大学 和漢診療科2006年 砺波総合病院 東洋医学科 部長2009年 亀田総合病院 東洋医学診療科 部長