薬剤師のための漢方薬講座/インフルエンザと漢方薬 -その2

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

ホスピタ薬局 石井佳郎

インフルエンザに対しては抗ウイルス薬による治療が一般的ですが、最近では漢方薬による治療も取り入れられていると聞きます。インフルエンザにはどのような漢方薬が使われるのか、そして、どのように使い分けられているのかを、日常的に漢方処方を扱っている石井佳郎氏に解説していただきます。

◆インフルエンザの急性期 ~温める~

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麻黄湯 葛根湯

「温める漢方薬」である麻黄湯や葛根湯は、インフルエンザやかぜのごく初期で、熱が上がり切っておらず、悪寒はするが汗をかいていない患者に使用される。桂皮や麻黄といった発熱を促す生薬によって速やかに一定温度まで体温を上昇させることで、悪寒を抑えるとともに強い発汗を促す。インフルエンザウイルスの減少に伴い免疫反応が低下すると体温は自然に低下する。

桂枝湯

同じく「温める漢方薬」である桂枝湯も初期に用いられるが、悪寒があり、かつ発汗をしている患者に使用される。穏やかな発汗を促す桂皮を含むので、身体を温めて汗を出し悪寒等を発散する。芍薬は発汗しすぎるのを抑えるため、発汗過多による脱水を予防することができる。

これらの漢方薬はあくまで感染初期で発熱を促すことを目的としており、悪寒が収まり発汗が起こるまで使うことが基本である。

温める漢方薬を処方された患者へのアドバイス

  • 食事は温かいものを取る
  • 体を冷やさない
  • 布団をかけて汗をかくようにして休む
  • 水分補給をしっかり行うPT101_p27.jpg

お粥は体を温め、水分補給もできるのでおすすめです。

インフルエンザの急性期 ~冷ます~

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板藍根(バンランコン)
銀翹散(ギンギョウサン)

「冷ます漢方薬」には板藍根や銀翹散といった生薬・漢方薬がある。これらは解熱・抗炎症作用などのある「清熱薬」である石膏や知母(チモ)を含まないが、体を冷やす作用のある生薬、あるいはそのような生薬を含む漢方薬である。

板藍根は体の熱を抑える生薬だが、インフルエンザウイルスをはじめ、ヘルペスウイルスなどに対する抗ウイルス活性を持つルペオールという成分を含む。普段からの服用や含嗽による使用で予防が期待できる生薬で中国では一般的に使われており、SARSや新型インフルエンザの流行の際には入手が困難になったという。

銀翹散も熱を下げる漢方薬であるが、弱いながらも発汗作用を持ち、併せて炎症を抑えることができるため、体温が下がらず、喉の腫れや粘調痰などの炎症がある場合に使用する。これらの「冷ます漢方薬」は、麻黄湯などが適応となるような、発熱・発汗による免疫反応を促すべき病態では使用しない。

白虎加人参湯
(ビャッコカニンジントウ)

炎症がひどく、発汗をしているものの体温が上昇し続けてしまうこともある。このような場合は石膏と知母を含む「冷ます漢方薬」の白虎加人参湯などが使われる。このような時期に麻黄湯などの発熱・発汗を促す漢方薬を使用すると炎症は収まらず、発汗が進み脱水になり症状はかえって悪化してしまうこともあるので注意が必要である。

◆インフルエンザの亜急性期

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小柴胡湯(ショウサイコトウ)
柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)
小柴胡湯加桔梗石膏(ショウサイコトウカキキョウセッコウ)

インフルエンザの病期が進み、発熱や悪寒を交互に繰り返したり(往来寒熱)、関節痛などの炎症が発現するようになると、今度は消炎効果のある小柴胡湯や、小柴胡湯と桂枝湯を組み合わせた柴胡桂枝湯が使われる。また咽頭部などの炎症が強い場合は、さらに桔梗と石膏の2つの生薬を追加することで冷やして炎症を抑える効果がより期待できる小柴胡湯加桔梗石膏が使われることもある。

◆咳や痰が残る患者には

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竹筎温胆湯
(チクジョウンタントウ)

インフルエンザの回復期に熱が長引いたり、咳や痰が残っている状態では竹筎温胆湯が使用される。竹筎温胆湯には二陳湯(二チントウ)という漢方薬が含まれている。これは胃腸の水分吸収の障害を改善し、周囲への水分漏出・蓄積・濃縮を改善する効果を持つ。つまり、竹筎温胆湯は長引く症状などにより弱った胃腸に働き、気管や肺での余計な粘稠痰の形成を抑える作用を持つ。

 さらに、気管を潤して粘稠痰の排出を促進する桔梗や麦門冬(バクモンドウ)といった生薬も含む他、熱を下げる黄連(オウレン)や柴胡が含まれている。胃腸が弱り、熱がなかなか引かずに粘稠痰や咳が出る状態であればインフルエンザやかぜに限らずとも、効果的に作用する。

◆うまく発熱できない患者には

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人参湯(ニンジントウ)
真武湯(シンブトウ)
麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)

体力が低下している高齢者などでは、本来発熱して免疫力を上げなければならないところが、うまく発熱できずに症状が長引いてしまうことがある。このような場合は体の内側から発熱するための「温める漢方薬」を使用する。

具体的には人参湯や真武湯、麻黄附子細辛湯などで、生姜(ショウキョウ)・乾姜(カンキョウ)・附子といった生薬が含まれた漢方薬がよく使われる。これらの漢方薬のうち、人参湯が基本となる。下痢やめまいといった水分代謝のトラブルである水滞や、腹痛などの症状がある場合、真武湯が使われることが多い。麻黄附子細辛湯は附子と細辛で発熱を促し、麻黄で発汗を促す漢方薬で、腹部に冷えがあり、発熱・発汗療法が適切な病態に使用される。

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