総合感冒薬~子供のかぜ薬、どんな薬がイイですか?-後編

医療法人社団徳仁会中野病院 青島周一

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総合感冒薬の効果って正直どんなもん?

総合感冒薬は、実際のところ、どのくらい効くものなのでしょうか。総合感冒薬の有効性について検討した27研究のレビュー3)によると、抗ヒスタミン薬と鼻閉改善薬(プソイドエフェドリンやフェニレフリン)の併用で、全般的症状改善が73%多いという結果になっています(表2)。ただし、有害事象は1.5倍多い傾向にありました(オッズ比1.58[95%CI 0.78~3.21])。

表2 総合感冒薬の有効性

参考文献3より筆者作成

表2を見ると、なんとなくかぜに効果がありそうですが、大事なのはどんな成分が入っていようがあまり効果に差がないという点です。強いて言えば、抗ヒスタミン薬と鼻閉改善薬の組み合わせが一番効きそうですが、解熱鎮痛薬は入っていようがいまいが、あまり有効性に関係なさそうです。もう1点、この報告は成人のデータで、小児における有効性の根拠は乏しいと結論されており、本ケースにそのまま当てはめることは難しそうです。

かぜに対する抗ヒスタミン薬は、鼻症状の改善効果が期待できそうな気もしますが、18研究のメタ解析によれば、その効果は1~2日程度の短期的なものであることが示されています4)。また、熱性痙攣の既往がある小児では、抗ヒスタミン薬が痙攣を誘発させる可能性5,6)もあり、クロルフェニラミンが含有されている総合感冒薬を販売する際には注意が必要です。

アセトアミノフェンは、解熱作用や発熱による違和感の改善効果が期待できるかもしれませんが、咽頭痛に対する効果はあまり明確ではありません7)。アセトアミノフェンは成人を対象とした一部の観察研究で、死亡リスクの増加も報告8)されており、僕らが思うほど安全な薬剤ではない可能性があります。

総合感冒薬は有効性だけでなく、その有害性にも目を向ける必要があります。米国の救急診療受診データの解析9)によれば、12歳以下の小児において、咳止めやかぜ薬による有害事象のために救急診療部を受診している人は年間で7,091人にも上り、この年代における薬物有害事象全体の5.7%に当たると報告されています。

米国では2007年10月より2歳未満への咳止め・かぜ薬の使用は自主規制10)がなされましたが、その前後で、2歳未満の咳止め・かぜ薬関連有害事象による受診は半減したと報告されています11)

国内においては、厚生労働省医薬食品局が発出している医薬品・医療機器等安全性情報12)によれば、2007~11年度の5年間に製造販売業者から報告された一般用医薬品の副作用報告数は計1,220例であり、総合感冒薬は404例でした。このうち死亡例は12例、後遺症が残った症例は8例と報告されています。

【結局のところどうしますか?】

総合感冒薬にはかぜの重症化を予防したり、死亡リスクを減らすようなインパクトのある効果は期待できません。控えめにいっても、飲まない場合に比べて少しだけ、ほんの少しだけ早く症状が緩和されるかどうか、という感じです。それも小児ではやや根拠に乏しく、たとえ成人であっても、プラセボと比較して症状の平均罹病期間に明確な差がないという報告もあります13,14)。そもそもかぜは自然治癒でも軽快する疾患であり、薬の必要性はそれほど高くはありません。

とはいえ、「総合感冒薬には副作用があるので、あまりおススメできません。しっかり睡眠、しっかり栄養が大事です」なんて言ったらお客さんもがっかりでしょう。お客さんの関心は「薬を子供に服薬させること」にあるからこそ、来店しているのです

これまで使っていた薬があるのであれば、それを販売してもよいと思います。どれを選でも有効性は大差ないわけですから、これまで使っていて、患者さんの満足度も高ければ、それはそれでよいのです。

ただ、熱性痙攣の既往歴やインフルエンザの可能性が高いなど、販売した総合感冒薬で有害事象リスクの増加が懸念される場合には、きちんと説明した上で販売を控えるべきでしょう。

侮れないヴィックスヴェポラップの効果

「副作用が怖いので、他に安全な薬はありますか?」と聞かれたら、ヴィックスヴェポラップという選択肢もあります。実はヴィックスヴェポラップ、小児の風邪に対する有効性を検討したランダム化比較試験が報告されているのです15)

この研究は上気道感染症状を有する 2~11歳の小児144人を対象にしたもので胸部および首周辺に、ヴィックスヴェポラップを塗布する群(44人)、ワセリンを塗布する群(47人)、無治療(47人)の3群を比較してかぜの症状を比較検討したものです。

夜間の咳の頻度と重症度、鼻閉と鼻漏の重症度、小児および親の睡眠状況が、スコア(点数)で評価されました。なお、スコアは 1~7ポイントで、高いほど症状が重いことを示しています。主な結果を(表3)にまとめます。鼻症状の改善はあまり期待できなさそうですが、咳に関しては一定の効果がありそうです。また睡眠スコアを改善している点も大きなポイントかと思います。夜間、子供がしっかり睡眠を取れれば体力の回復も早まりますし、親の介護負担も減ることでしょう。

表3 ヴィックスヴェポラップの有効性

参考文献15より著者作成

日本において、ヴィックスヴェポラップは生後6カ月から使用できます。外用薬ですし、含まれている有効成分を見てもそれほど危険な薬剤ではなさそうですが、どんな医薬品にも有害事象のリスクは存在します。実際、鼻の下にベポラップを塗布した18カ月の健康小児が呼吸困難を引き起こした症例が報告16)されており、安全性が高いと思われがちな薬剤でも、適切な使用法をしっかり説明することが大切です。

【連載コンセプト】
薬剤師、登録販売者のためのOTC連載です。OTC医薬品に対する考え方、使い方について「実践的」に整理します。筆者のドラックストアでのバイト経験と、具体的な薬剤エビデンスに基づき、実際の患者にどうアプローチしていけばよいのか、ピットフォールなどを交えて解説していきます。

【プロフィール】
a/rensai/files/aoshimashi.jpg

保険薬局勤務を経て、現在は病院薬剤師。NPO法人AHEADMAP共同代表。
普段は論文を読みながら医師に対して処方提案などを行っていますが、薬剤師によるEBMの実践とその普及に関する活動もしています。

公式ブログ:思想的、疫学的、医療について
Twitter:@syuichiao89

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