何を見て薬を出すのか

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「症状処方はいかんよ」

 中井久夫さんは症例検討会でたびたび、そう口にした。症状処方とは、症状に対して薬を出すこと。それの何がいかんのかとお思いになる方もいるかと思うが、患者が症状を訴えるたびに薬を出すと、薬の種類も量も増えてゆく。

 不安、動悸、頭痛、不眠、抑うつ、イライラ、食欲不振などを訴える患者の症状のひとつひとつに処方を始めると抗不安薬、鎮痛剤、睡眠薬、抗うつ薬、気分安定剤などがあっという間に処方箋に並び、患者はそれを飲むことになる。

「症状の向こうに何があるのか。どんな病気かを見立てて処方しないとね」

と中井さんは言葉を続けた。

 症状がなくなればいいという考えで処方をするのはやめておきなさい。診断して、症状の奥にある疾患を見立て、その疾患に対して薬を出しなさい。それが中井さんの教えだった。

胡桃澤 伸(くるみざわ・しん)

精神科医・劇作家

1966年、長野県生まれ。95年から神戸大学精神神経科での勤務を開始。その後、大阪、東京、千葉の病院に勤務。専門は統合失調症、外傷性精神障害。劇作家として「くるみざわしん」の筆名で関西を中心に上演を続けている。「同郷同年」が「日本の劇」戯曲賞2016と第25回OMS戯曲賞大賞、「忠臣蔵・破 エートス/死」が2019年文化庁芸術祭新人賞を受賞。共著に『中井久夫講演録 統合失調症の過去・現在・未来』、近著に『くるみざわしん 精神医療連作戯曲 精神病院つばき荘/ひなの砦 ほか3篇』(いずれもラグーナ出版)がある。

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