福島の甲状腺検査に見る「過剰診断の罪」

宮城学院女子大学 生活科学部教授(臨床医学)緑川早苗

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 今年(2025年)6月12日、私が所属する若年型甲状腺がん研究会(JCJTC)は、福島県で原発事故後に行われている超音波検査を用いた甲状腺がんスクリーニング(以下、甲状腺検査)に対する要望書を福島県に提出した。実施主体である福島県に学校検査の即時中止や住民への正しい情報提供を求めたものである。JCJTCは福島の甲状腺検査に代表される若年の甲状腺がんの過剰診断について、今考えるべき課題であるという認識で発足し、国内外の専門家が学会横断的に参加している。

 私自身は甲状腺検査の現場に約10年間関わり、過剰診断の問題に直面し、どうにかしなければいけないという考えでJCJTCに参画した。JCJTCが行政への要望書提出を行った背景の一つに、福島県で生じている過剰診断の被害は、今日の医療における喫緊の課題であり、それについて多くの人々に知っていただきたいという願いがある。

 過剰診断の問題は、医療者にとっても分かりにくく、解決が難しい面が確かにあるが、第三者としてではなく日常診療でも発生しているより身近なものと考えていただければ、理解が深まるのではないかと思う。

緑川 早苗(みどりかわ さなえ)

宮城学院女子大学 生活科学部教授(臨床医学)

1993年福島県立医科大学卒業。福島県立医科大学内科学第三講座(現糖尿病内分泌代謝内科)入局。福島県立医科大学病院等にて内分泌疾患の診療に携わる。2011年福島第一原発事故後の健康調査である甲状腺検査に関わり、2012年1月より放射線健康管理学講座に学内移動。2015年4月から3年間甲状腺検査室長として甲状腺検査の改革と住民への説明に取り組むが、過剰診断の説明もその被害を予防する活動も禁止という大学の方針のため退職。2020年4月より現職。福島で現在も行われている甲状腺検査の問題点の早期解決と過剰診断の抑制のための活動を行っている。​

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