編集部・小暮秀和の一押し記事 「日本人における萎縮型加齢黄斑変性の特徴とは」 2025年11月4日掲載 新生血管型の陰に隠れた存在 加齢黄斑変性(AMD)は新生血管型(滲出型)と萎縮型に大別されるが、国内では前者が"メジャー"。患者数が多く、近年は抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の登場により転帰が大きく改善されてきた。2024年には日本眼科学会が『新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン』を改訂。各学会においても、ブロルシズマブ、ファリシマブ、アフリベルセプト8mgなどの抗VEGF薬に関する研究発表が数多く見られる。恥ずかしながら、記者としても無意識に「AMDといえば新生血管型」と考えていた節がある。 一方の萎縮型。網膜色素上皮や脈絡膜毛細血管板が徐々に萎縮、黄斑部に地図状萎縮(GA)が形成されることで中心視力が失われていく病態だ。脈絡膜新生血管を伴う新生血管型と異なり、その進行は遅い。だからというわけでもないだろうが、患者数が少ないこともあり、これまで有効性が示された治療薬は存在していなかった。 そうした中、今年(2025年)9月に国内で初めてGAを伴う萎縮型AMDを対象とした治療薬アバシンカプタド ペゴルが条件付き承認された(関連記事「加齢黄斑変性治療薬アイザベイ、条件付き承認取得」)。網膜細胞の変性を引き起こす補体系の活性を低下させることにより、GAの進行を遅らせるという新しいアプローチ。長らく、生活習慣の改善やサプリメントの服用といった選択肢しかなかった萎縮型AMDに対し、治療薬が加わった意義は大きい。10月に開催された日本臨床眼科学会でも早速、萎縮型AMDに関する研究発表があった。 眼科医でも認知度は低め? 萎縮型AMDは日本ではまれな疾患であり、国内における主要な地域コホート研究から算出したプール有病率は0.024%、新生血管型との比率は1:19と低い。 他方、人口増加と高齢化を背景に、今後は日本を含むアジアでAMD患者の急激な増加が見込まれており、新生血管型だけでなく萎縮型の患者も確実に増えていくことが予想されるという。疫学情報に乏しい萎縮型AMDに関する発表に、多くの眼科医が足を運んでいたことは言うまでもない。 ちなみに、同学会ではGAの病態や診断、治療に関する企業共催セミナーも開催されており、こちらも大盛況。とはいえ「萎縮型AMDについて、耳にしたことはあったが病態などについてはほとんど知らなかった、という医師も少なくない。認知はまだまだこれから」との声が漏れ聞こえてきた。 新薬の登場はいわばスタートライン。老いと視覚の未来をどのように守るか-"静かに"進行する病だからこそ決して見過ごすまいと日々研鑽に努める医師とともに、医療メディアとしての役割を果たしていきたい。