アウトサイダーの視点

再生医療「日本ルール」の致命的欠陥

自家培養軟骨「ジャック」の「変形性膝関節症」への適応拡大を考える

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初めに:手術・入院・リハビリ...患者負担の大きい治療

 今年(2026年)1月、自家培養軟骨「ジャック」(J-TECと広島大学の共同開発)が再生医療等製品として「変形性膝関節症(knee osteoarthritis:膝OA)」に適応拡大・保険収載された(関連記事「変形性膝関節症、自家培養軟骨ジャックへの期待」)。

 「ジャック」は、外来処置や処方で完結する治療ではない。まず、入院して関節鏡下での軟骨採取手術から始まる。膝関節内の健常部位(主に大腿骨顆部の非荷重部)から軟骨を切除し、これを原材料として細胞加工施設へ送付する。採取された軟骨細胞は、施設で数週間にわたり培養され、アテロコラーゲンゲルに包埋された「培養軟骨」として製品化される。製造工程では動物由来原料も使用されるため、事前の皮内テストやアレルギー評価が必須とされ、適応には複数の制約条件が課されている。

 その後、2回目の手術として培養軟骨の移植術が行われる。変性した軟骨を除去した欠損部に培養軟骨を挿入し、さらにコラーゲン膜や骨膜を用いて縫合固定する。術後には移植片の脱落や肥大を防ぐため、荷重制限や可動域制限が課され、慎重な術後管理と約1カ月の段階的なリハビリテーションが不可欠となる()。

図. ジャックの治療プロトコール

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(川口 浩氏提供)

 すなわち「ジャック」は、外来通院でのヒアルロン酸(HA)注射や薬物療法とは本質的に異なり、「2回の手術+入院+細胞加工+集中的リハビリ」という極めて長期で煩雑な医療プロセスを要する治療である。いうまでもなく、患者は大きな身体的・時間的・経済的・心理的負担を強いられることになる。

 「ジャック」は2012年に、外傷性軟骨欠損症・離断性骨軟骨炎というマイナーな適応症に対して承認・保険収載されたが、今回、超メジャーな「膝OA」に適応拡大されて市場に出たことになる。適応症名は「膝OA」だが、その下に「効果・効能」として「膝OAに対する『臨床症状の改善』」と付記されている。さらに、「保存療法に反応せず、軟骨欠損面積が2cm²以上の症例に限る」、という条件付きである(添付文書)。

 今回の適応拡大・保険収載の経緯を検証すると、日本の再生医療、ひいては日本の薬事・医療制度が抱える極めて特殊な構造的問題が露呈する。

川口 浩(かわぐち ひろし)

社会医療法人社団蛍水会 名戸ヶ谷病院・整形外科顧問

1985年、東京大学医学部医学科卒業。同大学整形外科助手、講師を経て2004年に助教授(2007年から准教授)。2013年、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター・センター長。2019年、東京脳神経センター・整形外科脊椎外科部長。2023年から現職。臨床の専門は脊椎外科、基礎研究の専門は骨・軟骨の分子生物学で、臨床応用を目指した先端研究に従事している。Peer-reviewed英文原著論文は340編以上(総計impact factor=2,032:2023年7月現在)。2009年、米国整形外科学会(AAOS)の最高賞Kappa Delta Awardをアジアで初めて受賞。2011年、米国骨代謝学会(ASBMR)のトランスレーショナルリサーチ最高賞Lawrence G. Raisz Award受賞。座右の銘は「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」。したがって、日本の整形外科の「大樹」も「長いもの」も、公正で厳然としたものであることを願っている。

川口 浩
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