「交通事故患者は苦手」な医師のための診療マニュアル
「自賠責ビジネス」「柔整並診」「書類の山」の悩みに対応
はじめに
交通事故患者が苦手だ。問診票の「交通事故」の欄にチェックが入っているのを見た瞬間、目の前が真っ暗になる。
高エネルギー外傷による頸髄損傷や明らかな骨折もまれにはあるが、大部分は画像上の器質性異常を認めない頸椎捻挫(ムチウチ)をはじめとする「打撲、捻挫」である。これらは教科書的には最長でも3カ月で治癒するとされ、損害保険会社もそれまでは面倒を見る。しかし、3カ月を過ぎても症状を訴え続ける患者が少なからず存在する。多くの場合、弁護士が介入してくる。損保会社が無責任に提供している「弁護士費用特約」の普及が一因である。
自分でトラブルの種をまいておきながら損保会社は、医療現場に膨大な書類業務を求めてくる。毎月の自賠責診断書に加え、後遺障害診断書、医療照会書兼回答書、症状の推移、神経学的所見の推移、脊髄症状判定用...これが、激ウザい。
交通事故診療は「価格規律のない医療市場」
健康保険診療や労災保険診療は厚生労働省の管轄下で診療報酬体系が制度的に規定されているのに対し、交通事故医療は国土交通省および金融庁の所管であり、自由診療として運用されている。すなわち、交通事故診療は、自由診療と第三者支払いが野合した「価格規律のない医療市場」なのである。
このゆがみを是正しようと、1989年に日本医師会と損保業界が「労災基準に準拠する」自賠責診療費算定基準(いわゆる新基準)に合意したが、40年近くも法的拘束力はないままである。日医がいくら遵守と普及を呼びかけても、現場では価格設定の自由が謳歌されているのが現状である。
目に余るのは、中心性脊髄損傷だの肩腱板損傷だの椎間板ヘルニアだの圧迫骨折だの、ありもしないテキトーな傷病名をつけて、過剰な検査、治療、特にリハビリを長期にわたり漫然と継続し(関連記事「社会に二重悪の『運動器リハ通院』にメスを」)、さらには1点20円、中には30円という強気の算定や、書類1枚数万円の請求をしている、いわゆる「自賠責ビジネス」で稼いでいる医療機関の存在である。交通事故患者が大好物な医者もいる、ということである。その背後には、修理業者や怪しげな紹介ルートを介した「自賠責ネットワーク」の存在もささやかれている。
では、「自賠責ビジネス」で稼いでいない善良なわれわれ医師は、「打撲、捻挫」交通事故患者にどう対応すべきか。Medical Tribuneウェブ会員のために、秘蔵?の川口流「交通事故診療マニュアル」を紹介する。「交通事故患者が苦手」というご同輩には、共感していただけるのではないだろうか。
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