ドクターズアイ 岩井拓磨(消化器外科)

血管は「ただのチューブ」ではない

抗VEGF療法:血中Tie2で読む血管の相と、治療切り替えのトリガー

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研究の背景: vascular normalizationと微小環境heterogeneity

 抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法はしばしば「兵糧攻め」と呼ばれる。腫瘍の血管新生を抑え、酸素と栄養の供給を断つイメージに合う比喩である。しかし抗VEGF療法の本質的な作用はこれだけではなく、血管の透過性や構造異常を是正し灌流や酸素化、薬剤到達性を正常化するvascular normalizationも重要である(Science 2005; 307: 58-62)。

 前回でも触れたように、進行がんではheterogeneity(不均一性)を常に念頭に置きながら治療戦略を考えるべきであるが(関連記事:「術後微小残存病変を『拾う』から『読む』へ」)、不均一性が見られるのは腫瘍細胞の遺伝子だけではない。血管を含む微小環境や宿主の臓器リザーブ(予備能)、毒性耐性でも見られ、かつ時間とともに相が変わる。抗VEGF療法はこの「腫瘍の外側の不均一性」に介入する治療ともいえる。一方、実臨床では同療法に伴う血管関連有害事象(出血、創傷治癒遅延、消化管潰瘍など)をいかに評価・管理するかは避けて通れない問題である。さらに、治療効果がどこで頭打ちになるのか、耐性化や切り替えをいつ判断するのかという観点からも、血管反応のバイオマーカーが求められる。

 2018年にGordon C. Jayson氏らは抗VEGF療法による血管反応として血中可溶型Tie2(血中Tie2)の有用性を提示したが(Nat Commun 2018; 9: 4672)、このほど同プログラムの長期追跡アップデートがTRAVASTIN studyとして報告された(Clin Colorectal Cancer 2025年11月12日オンライン版)。小規模サブセットの探索的な結果であり、あくまで仮説の提示として読むべきであるが、血管を静的構造ではなくダイナミクスとして評価し、治療設計に組み込むという重要な視点を与えてくれる。

岩井 拓磨(いわい たくま)

日本医科大学 消化器外科 病院講師

2007年日本医科大学 医学部卒業。同大学 消化器外科に入局し、助教、関連病院勤務を経て、同大学院 外科学講座にて博士号を取得(2018年Ph.D.)。大学院在学中には、Liquid Biopsyを用いた腫瘍評価法(第7215675号)や、血中DNA分解酵素活性を利用した絞扼性腸閉塞診断法(第6844833号)を開発し、特許取得するなど、臨床現場の課題解決に早くから注力。現在は大腸癌の手術・薬物療法を軸とした集学的治療のエキスパートとして臨床に当たる傍ら、個別化治療の最適化を目指したトランスレーショナルリサーチにも取り組む。

主な所属:日本内視鏡外科学会(評議員・技術認定医)、日本大腸肛門病学会(評議員・専門医)、日本外科学会(専門医・指導医)、日本消化器外科学会(専門医・指導医)、日本消化器病学会(関東支部評議員・専門医・指導医)、ESMO memberほか。

岩井 拓磨
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