ドクターズアイ 大前憲史(泌尿器)

尿意が「歩行の乱れ」を招く!

転倒リスクに影響?高齢女性対象の横断研究

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研究の背景:過活動膀胱が転倒と関連するのはなぜか

 転倒は、年齢層にかかわらず比較的多く見られる受傷機転である。特に、高齢者では骨折や頭部外傷、場合によっては肺や腹部臓器の損傷といった重大なイベントにつながることがあり、切実な問題である。長期入院や手術が必要となれば、身体機能だけでなく認知機能の低下リスクがいっそう高まり、退院後も本人はもちろん、介護者に大きな負担となり続ける。高齢者にとって、まさに「転倒は万病の元」と言っても過言ではない。関連する社会・経済的損失も相当なもので、高所得国では転倒関連の支出が医療費の約1%を占めると報告されている(Age Ageing 2022; 51: afac205)。

 尿失禁は、転倒と並び老年症候群の重要な一症状として知られており、以前から両者の関連性を示唆する研究は多くあった。こうした中、筆者らは尿失禁ではなく過活動膀胱に着目し、特に尿失禁を伴わない過活動膀胱であっても転倒と関連することを報告している(J Urol 2021; 205: 219-225)。

 では、なぜ尿失禁を伴わなくとも過活動膀胱が転倒と結び付くのか。共通するなんらかの要因(交絡因子)が両者の関連性を強調している可能性はある。ただ筆者らの解析では、年齢・性・BMI・歩行速度・糖尿病・高血圧・視力障害・うつ・認知症・脳卒中といった因子の影響を調整しても、ベースラインで尿失禁を伴わない過活動膀胱のある地域在住高齢者は、過活動膀胱のない方と比べ、翌年に転倒するリスクの上昇が示唆された(オッズ比2.74)。

 過活動膀胱があると、夜間に尿意で目が覚めてトイレに行く頻度が増え、転倒リスクが高まるというのは臨床的にも考えやすいシナリオである。しかし、筆者らはそれ以上に過活動膀胱に特徴的な「急で強い尿意」に対し、漏れないよう我慢することに注力するあまり、特に高齢者では歩行というタスクがおろそかになってしまうのではないか、と常々考えてきた。

 今回紹介する論文は、まさにこの仮説を直接的に検証しようと実施された研究結果を報告するもので、シンプルながら非常に興味深く拝読した(Int Urogynecol J 2026年3月30日オンライン版)。

大前 憲史(おおまえ けんじ)

福島県立医科大学病院臨床研究教育推進部部長・特任准教授

2003年、名古屋大学医学部卒業。臨床研修後10年間、がん手術を中心に泌尿器科医として研鑽を積む。東京女子医科大学泌尿器科(助教)、京都大学大学院医療疫学分野(博士後期課程)、福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター(研究フェロー)などを経て、2026年より現職。専門は泌尿器科学×臨床疫学。臨床業務に携わりながら、臨床研究における方法論的な観点から研究や教育活動に従事。社会健康医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、社会医学系専門医、日本臨床疫学会上席専門家、日本老年泌尿器科学会評議員の他、学会機関誌の編集委員も務める。良質なエビデンスをいかに効率的かつ効果的にユーザーに届けられるかが近年の関心事。著書に『医学論文査読のお作法 査読を制する者は論文を制する』(健康医療評価研究機構)などがある。

大前 憲史
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