ドクターズアイ 加藤忠史(精神)

統合失調症の新薬KarXTに再発予防効果はあるか?

従来薬に特徴的な有害事象も問題なし

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研究の背景:実施見通し低いプラセボ対照比較試験、オープンラベル試験でも貴重

 American Journal of PsychiatryAJP)誌の2026年3月号の目次に、52-Week Open-Label Extension Trialという文字を発見し、学術誌の編集に携わる者の1人としては「あれっ?」と思った。二重盲検比較試験でなく、オープンラベル試験の論文が、AJP(インパクトファクター14.7)のようなハイプロファイルジャーナルに掲載されることは珍しいからである。どうしたことかと思ってよく見てみると、統合失調症に対するKarXT(カーエックスティー)の長期試験の成績であった(Am J Psychiatry 2026; 183: 183-192)。

 KarXTは、M1/M4ムスカリン受容体アゴニストであるザノメリン(Xanomeline)に、その末梢副作用を抑えるための末梢ムスカリン受容体拮抗薬であるトロスピウム(Trospium)を組み合わせた合剤である。この薬については、2024年12月23日の本欄で紹介した(関連記事「統合失調症に72年ぶりの新機序薬!」)。従来の統合失調症治療薬が全てドパミンD2受容体阻害作用を介するのに対し、72年ぶりの新たな作用機序を持つ抗精神病薬の登場である。この記事の中で、「KarXTがこれまでの抗精神病薬と同様の再発予防効果を持つかどうかは、この薬の臨床応用において決定的に重要であり、早期に明らかにされる必要がある」と述べた。

 今回の論文は、その疑問にある程度答える内容である。

 もちろん、プラセボ対照試験ではないためエビデンスレベルは高くないが、統合失調症において、再発を主要評価項目とした52週にわたるプラセボ対照試験は、もはや倫理的に許容されないであろう。2003年にBeasleyらにより報告された、オランザピンの52週のプラセボ対照比較試験(J Clin Psychopharmacol 2003; 23: 582-594)で、6カ月累積推定再発率は、オランザピン群の5.5%に対しプラセボ群で55.2%と極めて高く、これを機にこうした試験が倫理的に許容されるのか、という議論が高まった。

 そのため、KarXTの再発予防効果を検証するための52週にわたるプラセボ対照比較試験が行われる見通しは低く、この論文の結果はオープンラベル試験とはいえ、再発予防効果の有無を判断するための貴重なデータになると思われる。

加藤 忠史(かとう ただふみ) 

 順天堂大学精神医学講座主任教授。1988年東京大学医学部卒業、同病院で臨床研修、1989年滋賀医大精神医科大学講座助手、1994年同大学で医学博士取得、1995年米・アイオワ大学精神科に留学(10カ月間)。帰国後、1997年東京大学精神神経科助手、1999年同講師、2001年理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チームリーダー、2019年理化学研究所脳神経科学研究センター副センター長を経て、2020年4月から現職。

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