ドクターズアイ 大前憲史(泌尿器)

やっぱり有用!前立腺がんの監視療法

スクリーニング検出例の長期成績から

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研究の背景:PSA検査がもたらした新たな課題

 日本人の前立腺がん罹患数はこの40年間で約30倍に上昇し、部位別に見ると今や男性の部位別がん罹患数は第1 位と最も多く、次いで大腸がん、肺がん、胃がんの順となっている〔2021年時点、国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)より〕。一方で年齢調整死亡率は、2000年にピークを迎えた後は緩やかに低下を続けている。2023年時点では肺がん、大腸がん、胃がん、膵がん、肝がんに次いで、前立腺がんは第6位であり〔同(厚生労働省人口動態統計)より〕、罹患数と死亡率との間にはいくらかの乖離がある。前立腺特異抗原(PSA)測定によるスクリーニングの普及で、より早期に前立腺がんが診断されるようになったことが一因と考えられている。

 生前は臨床症状が認められず、他の原因で亡くなった際の病理解剖で初めて発見されるがんをラテント(潜在的な)がんと呼ぶが、前立腺ラテントがんは若年男性にも存在する。年齢の上昇とともに徐々にその頻度が高くなることから、数十年の経過で極めて緩徐に成長すると推測されている。

 このような前立腺がんでは、PSAスクリーニングが生涯にわたり健康には影響を与えないような、臨床的に重要でない病変まで見つけてしまう過剰診断や過剰治療が問題となる。最近改訂された『前立腺がん検診ガイドライン(GL)2025年版』では、「50 歳以上の男性に対してPSA検査による前立腺がん検診の実施を提案するが、利益・不利益バランスに関する情報提供を行った上で個人の意向に従って実施することが好ましい」とされている〔推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ):B(中)〕。

 前立腺がん治療は、おおむね外科治療・放射線治療・薬物療法(主にホルモン療法)の3つに分けられるが、転移の有無で治療方針が大きく異なる。転移のない限局性がんの場合、複数の指標を組み合わせリスク分類が行われ、根治を目指してリスクに応じた強度で治療が選択される(GL2023年版)。中でも、低リスク以下の早期前立腺がんでは、過剰治療を回避すべく、定期的なPSA検査や直腸診、画像検査や前立腺生検で病勢を「積極的に監視」しながら増悪の徴候が見られるまで治療は行わない監視療法(Active Surveillance;AS)という選択肢がある。近年は中間リスクの一部にも適応が拡大されつつある。臨床的に重要でない前立腺がんにはASが理想的なアプローチとなるが、現状、完全に見極めることは難しいため、時にASを選択したばかりに根治の機会を逸してしまうケースが生じうる。

 こうした中、最長25年もの間追跡されたGÖTEBORG-1試験の結果に基づき、ASの長期成績を評価した論文が発表されたので紹介したい(Eur Urol 2025; 88: 373-380)。

大前 憲史(おおまえ けんじ)

福島県立医科大学病院臨床研究教育推進部副部長・特任准教授

2003年、名古屋大学医学部卒業。臨床研修後10年間、がん手術を中心に泌尿器科医として研鑽を積む。東京女子医科大学泌尿器科(助教)、京都大学大学院医療疫学分野(博士後期課程)、福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター(研究フェロー)などを経て、2020年より現職。専門は泌尿器科学×臨床疫学。臨床業務に携わりながら、臨床研究における方法論的な観点から研究や教育活動に従事。社会健康医学博士、日本泌尿器科学会専門医・指導医、社会医学系専門医、日本臨床疫学会上席専門家、日本老年泌尿器科学会評議員の他、学会機関誌の編集委員も務める。良質なエビデンスをいかに効率的かつ効果的にユーザーに届けられるかが近年の関心事。著書に『医学論文査読のお作法 査読を制する者は論文を制する』(健康医療評価研究機構)などがある。

大前 憲史
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