ドクターズアイ 山田悟(糖尿病)

体重減量とは無関係?! GLP-1RAの心血管保護効果

SELECT試験のサブ解析から

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研究の背景:体重減量は心血管イベント予防に重要と考えていた

 臨床試験を振り返ると、古くはUKPDS33(Lancet 1998; 352: 837-853)からTECOS(N Engl J Med 2015; 373: 232-242)まで、長らく糖尿病治療単独では心血管イベントの抑制はできないのではないかと思われていた。

 その概念を大きく変更したのがEMPAREG-OUTCOME(N Engl J Med 2015; 373: 2117-2128N Engl J Med 2016; 375: 323-334)とLEADER(N Engl J Med 2016; 375: 311-322N Engl J Med 2017; 377: 839-848)であり、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の糖尿病診療における立ち位置の格段の向上につながっている。

 両試験は奇しくも、心血管イベント試験と腎臓アウトカム試験の双方がN Engl J Medに載るという快挙を達成した点で共通しているのであるが、腎臓アウトカムの改善であれば、既存の糖尿病治療薬でも達成できていた。ではなぜ、この2つの薬剤(のみ)が心血管イベントの抑制を示すことができたのか、という点について、私の師の1人である練馬総合病院(東京都)院長・柳川達生氏が興味深い視点での報告を行っている。

 すなわち、体重の減量が心血管イベントに寄与しているというのである(J Clin Med Res 2017; 9: 449-450)。体重減量には、体脂肪の減量という面と、体液量の管理という面があろうが、私自身も心血管イベントの予防という点で体重の変化は重要であると考えていた。

 ところが、GLP-1RA投与による非糖尿病肥満症患者を対象とする心血管アウトカム試験SELECT(N Engl J Med 2023; 389: 2221-2232)において、同薬による心血管疾患予防効果が体重減量の影響を受けていないとするサブ解析の結果が最近のLancetに発表されたのである(Lancet 2025; 406: 2257-2268)。この試験は、非糖尿病肥満患者が対象であるので、血糖管理に対する影響でもなく(少なくとも血糖管理に対する影響は最小で)、体重管理に対する影響でもない要素で、GLP-1RAが心血管イベントを抑制することを示唆するものであり、GLP-1RAやSGLT2阻害薬の多面的効果を考える上で重要な視座を与えてくれる論文と考え、ご紹介したい。


山田 悟(やまだ さとる)

1994年、慶應義塾大学医学部を卒業し、同大学内科学教室に入局。東京都済生会中央病院などの勤務を経て、2002年から北里研究所病院で勤務。 現在、同院糖尿病センター長。診療に従事する傍ら、2型糖尿病についての臨床研究や1型糖尿病の動物実験を進める。日本糖尿病学会の糖尿病専門医および指導医

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